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BUSINESS ー SONY元異端社員の艶笑ノート

SONY元異端社員の艶笑ノート

 「ボジョレ・ヌーヴォーを解禁前日に売っているお店」

2017.5.14
2017.5.14

ソニーがプレステでゲーム業界に殴り込みをかけた頃

話はまた、ぼくがソニーで働いていた時代に戻る。

90年代の前半、ソニーはプレイステーションを発売し、任天堂一色だったゲーム業界に殴り込みをかけた。

覚えている人も多いだろうが、当時、任天堂のファミコンシリーズは我が世の春を謳歌していて、昔の話だから遠慮なく書いてしまうが、ファミコンの本体を買うためには、ソフトを抱き合わせで買わなくてならないほどの殿さま商売がまかり通っていた。

店側の言い分では、ソフトがなければ遊べないのだから、一緒に買うほうが理に適っているという理屈だったが、中には悪質な店もあった。

どう悪質かというと、抱き合わせで買うソフトを客が自由に選ばせてもらえず、人気がなくて売れ残ったソフトを店が強制的に買わせていたのだ。ぼくが本体を買った店がまさにそうで、強制的につけられたソフトは信じられないほど面白くなく、一度しか遊ばず放ってあった。

今の時代なら大問題となり、消費者センターが目を三角にするような、とんでもないことがまかり通っていたのだが、そんなところに現れたのがプレステだった。

当初、業界の目は冷ややかで、ちょうど今の安倍政権に弱小の野党がケンカを売るかのようなとらえ方だったが、数日たつと目の色が変わった。

バカ売れしたからだ。

理由として、マスコミはゲームの面白さだとか、斬新さなどをあげていたが、本当の理由は別なところにあった。ファミコンと違い、プレステは店としても売りやすいビジネスモデルにしたからだ。

ファミコンはカセット式のため製造に時間と手間がかかり、一旦品切れになると、追加の注文から入荷までかなり待たされたのだが、プレステはCDなので、カセットと違ってすぐにプレスできる。
つまり、ソフトの流通がスムーズで回転もいいため、店として商売しやすかったのが大きな理由だった。

ぼくは美人店員が目当てで、2つ隣の駅で降りていた

世間がプレステブームに沸いている頃、ぼくは下町の深川のマンションに住んでいた。マンションのすぐ近くに地下鉄の駅があったが、帰宅の際には最寄駅から2つ隣の駅で降り、ある小さな食料品屋で買い物をし、20分くらい歩いて帰っていた。

理由は、気になる女性が店員をしていたからだ。

彼女は女優の深津絵里に似ていて、近づくと花の香りがした。店にはぼくの他にも男性客がたくさんいた。彼女目当てなのは明らかで、一度店に入るとなかなか出ていかず、小さな店の中は暑苦しい男でごった返していた。たまに、見りゃわかる値段を、確認と称してあえて聞くなど、セコイ手を使い、何とかして知り合うきっかけを作ろうとしているヤツもいた。

そんな彼女を巡り、ぼくら男性客は無言の戦いをしていた。男同士、敵が何を考えているかは聞かなくてもわかったからだ。

解禁前日に並ぶボジョレ・ヌーヴォー

ところが、ある日を境に彼女は姿を見せなくなった。
代わりに店に出ていたのは、彼女によく似たおばさんだったので、母親だろうと思い、

「娘さんを見ないですが、どうかしたんですか?」

と聞いてみた。
すると、笑顔でこう言われた。

「おかげ様でお嫁に行きました」

あっけない幕切れだった。


やがて父親なのか、知らないオジサンが店を手伝うようになったが、彼女がいなくなると男性客がみるみる減った。いくら似ているといっても母親では意味がない。彼女がいなくなったダメージは大きく、客は日を追うごとに減っていった。

そんなある日、久しぶりに通りかかると店の前に人だかりができていた。もしや深津絵里が戻ってきたのかと思って見ると、お客さんは入り口の木箱から瓶を取り出し、次々と店に入っていく。
手書きのポップにはこう書かれていた。

「ボジョレ・ヌーヴォー 解禁前にどうぞ!」

そうか、もうその時期なのかと思ったが、「解禁前にどうぞ」とはどういうことか? ボジョレ・ヌーヴォーは発売日を厳格に決められていたのではなかったのか? 

頭に「はてなマーク」を浮かべている隙にボジョレはみるみる売れていき、あっという間に完売となった。

ボジョレ・ヌーヴォーは「少年ジャンプ」?

もちろんぼくも一本買って帰宅後に飲んだが、ワインについてはド素人で何の専門知識もない。
そこで詳しい知人に電話すると、こう言われた。

「ボジョレ・ヌーヴォーは少年ジャンプなんだよ」

雑誌は発売日までは売ってはいけないが、前日には本屋に届いているのと同じで、ボジョレ・ヌーヴォーも解禁前日には届いていて、売らないだけらしい。なるほどそうだったのか。

90年代始めといえば、まだまだ日本の社会もノンキな時代だった。しかも下町にはそのことをチクるようなヤボはおらず、何の問題にもならなかった。その証拠に、翌年もそのまた翌年も、その店ではボジョレ・ヌーヴォーを解禁前夜に売っていた。

それがもし、現在のようにインターネットがある時代なら、誰かがネットに書いて噂はたちまち広がり、ワインなど飲まない無関係のヤツまでが、余計な正義感を振りかざすなど悪質なつるし上げが起きたかもしれない。

ちなみに、そのお店は今も健在だが、下町のユルい文化を守るため、どこにあるかは内緒にしておきたい。

Photo:Getty Images
Text:Masanari Matsui

松井政就(マツイ マサナリ)
作家。1966年、長野県に生まれる。中央大学法学部卒業後ソニーに入社。90年代前半から海外各地のカジノを巡る。2002年ソニー退社後、ビジネスアドバイザーなど務めながら、取材・執筆活動を行う。主な著書に「本物のカジノへ行こう!」(文藝春秋)「賭けに勝つ人嵌る人」(集英社)「ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている」(講談社)。「カジノジャパン」にドキュメンタリー「神と呼ばれた男たち」を連載。「夕刊フジ」にコラム「競馬と国家と恋と嘘」「カジノ式競馬術」「カジノ情報局」を連載のほか、「オールアバウト」にて社会ニュース解説コラムを連載中

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