先日、ある高校の「新入生と保護者」が集まる会に呼ばれてお話したんですが、そこに地元の保険代理店も来ていて、生徒向けの損害保険を宣伝していたんですね。
対人の自転車事故なんて賠償が億単位だったりしますから保険は大事。でも保護者が一番食い付いていたのは、
「お子さんのネット炎上時に、弁護士費用もまかなえる保険ですよ」
な、なるほど……ちょうど大学のおバカサークルが「旅館の破壊動画」で大炎上していた時期だったので、他人事とは思えなかったんでしょう。こんな宣伝文句を、まさか学校で耳にするとは思いませんでした、時代ですか。
あのサークル然り、若者がやらかすネット炎上って「なぜ投稿した?」という、もう自らダイナマイトを背負って火の中に飛び込むような内容ばかりですよね。
これまでも騒動のたび「炎上すると判っているのに、若者はなぜリスクのある投稿をするんですか」と1万回くらい聞かれてきましたが、実はアレ、本人は炎上するなんて夢にも思っていないんですよ。ビックリでしょ? 経緯はこうです。
俺のアカウントは大丈夫
彼らは炎上に至るその日まで、実に様々な投稿をしています。が、その殆どは「誰にも注目されない」投稿。盛り上がってもせいぜい仲間内。そりゃそうだ。だって
「オレらの友情は永遠」「地元最高!」
みたいな、他人にはどうでも良い投稿がバズるワケないですからね。ちょっと危うい投稿も運よく世間には気付かれず……その結果、
(俺のアカウントは何しても注目されない、仲間しか反応しない安全なアカウントなんだ)
という認識に至るワケです。まあトンデモない誤解ですが。だってネットは「誰が投稿したか」ではなく「何を投稿したか」で炎上する世界。実際フォロワーが数名しかいないアカウントの炎上が、過去に何度も起きています。内容次第であっさりバズる、ネット炎上も起こせる、これがネットです。
そんなネットの特徴を理解せず、ノーガードで投稿し続けた結果、ある日「どう考えてもアウト」なネタを投下してしまう……炎上Xデーです。朝から止まらないSNSの通知。知り合いからの「お前ヤバくね?」という連絡。これが終わりの始まり。
地球に「友達限定」など無い
若者はSNSを使い慣れているんだから、友達限定とか期間限定とか、とにかく拡散しない設定にしてるでしょ? ってよく言われるんですが、そんなもの無意味ですよ。
わざわざ限定公開にしてまで投稿したかったモノ=誰かに見せたかったモノですよね。そんなものを受け取った「友達」はやはり誰かに見せたくなる。
しかもアホな投稿をするヤツの友人は、悲しいかなやっぱりアホなので、スゲーな、ヤベーな、と言われたい承認欲求に勝てず、その投稿を「カシャッ」とスクショし、「これヤベーだろ」と画像で拡散、せっかくの限定公開を無効化してしまうのです。ここから拡散がスタートします(画像や動画になると拡散は加速します。説明が要りませんから)。
最近の一部SNSは、スクショを撮っても真っ黒な画像しか撮れない、いわゆる「拡散を防ぐ機能」も備えているんですが、残念ながらそれも無意味です。
だってそのSNSの画面、別のスマホのカメラで「カシャッ」って撮れますよね。人間の「保存したい」「誰かに見せたい」という欲求は絶対に押さえられないのです。
地球上に友達限定はない。この世に拡散や炎上を防ぐ仕掛けなど存在しない。ネットを安全に使うには「ネットの本質」を理解するしかないのです。
先生方によれば「ネットトラブルは新生活に慣れたGWあたりに増える」そうで、まあ実際そんな感じです。いざ炎上したら、それこそ弁護士費用なんてどうでも良くなるくらい大変ですから、ご用心を……。
Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)
※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。