「彼女はいるの?」
「いるわけないじゃないか。こっちに出て来たばかりなんだし」
「今度連れてきなさいよ」
「だから、いないって言ってるじゃないか」
「ふうん。でも女には気をつけなさいよ。顔だけにとらわれちゃダメよ。付き合うなら性格のいい子にしなさい」
初対面のぼくに向かって、彼女は最初からこんな話をしてきた。ゲームをしている(実際はトイレを借りにきた)だけなのに、何でそんなことまで言われなきゃならないのかとぼくは思った。クレジットを幾つも入れてくれたので、失敗してもまた次のゲームが遊べ、全然終わらない。彼女は、高そうな香水を漂わせながら、ぼくの隣に立って話しかけてきた。
この時、ぼくはすでにペット売場の多岐川裕美のことが好きだったが、夢はどうやら叶いそうにないことにも気づいていた。
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