BUSINESS ― SONY元異端社員の艶笑ノート

大事なことはみんな女が教えてくれた

「ソニーの村長さん」

2017.1.20
2017.1.20

俺は、三度の飯より悪口が好きなんだよ

ちょうど日本全体がボランティアだのメセナだのと、社会貢献ブームになっていた頃だった。それをテーマにした会議に参加すると、とにかく意見をハッキリ言う人がいた。

ちょっと太っていて、椅子にどっかと座り、歯に衣着せぬというべきか、正しいと思うことは正しいと言い、間違っていると思ったことは間違っていると言うなど、明らかに他の参加者とは毛色が違って見えた。

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彼は自分が納得できないことは譲らず、反論する人と激しくやりあっていた。議論はエスカレートし、しまいには強い口調で相手を批判した。他の参加者は黙り込み、とうとう司会者は休憩にしようと言った。
S村さんという、隣の部署の係長だった。
ぼくは彼に興味を持ち、話しかけてみた。
「激しいですね」
ふてくされたように彼は言った。
「俺は、三度の飯より悪口が好きなんだよ」

口の悪い人を指して、三度の飯よりも悪口が好き、ということはあるが、自分についてそう言えるのは彼が案外、誠実だからではないかと思った。しかも彼が言うのは悪口というよりも、正当な批判といったほうが正しかった。
ただ一つ、言葉が悪いのが玉にきずだった。年齢的には課長になっていてもおかしくないが、係長なのは、きっとそれが災いしているのだろう。

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会社組織の中で正義を貫こうとすると、時に自分の立場を悪くすることもあるため、言いたいことがあっても我慢するものだが、S村さんはそうではなかった。特に自分より上の立場の人に対しても、言うべきことはハッキリと言うところなど、ぼくはむしろ見習うべきだと思った。
会議が再開され、社会貢献を活動として進めようという上役に対し、彼は言った。

「社会貢献なんてものは、わざわざ社会貢献と名付けてやるようなものではない。会社の本業が社会に貢献していると自信を持っていれば、その中で一生懸命働くことこそが立派な社会貢献だ。
ボランティアや寄付のようなことに逃げるのではなく、本業で貢献してこそ、本当の社会貢献だろう」

彼のような人にはニックネームが必要だった

まったくその通りだと思った。
上役に対してもひるまず語る姿を見て、理由は思い出せないが、なぜかぼくはこういう人にはそれ相応のニックネームが必要だと思った。

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咄嗟に「村長」がいいと思った。苗字に村が付いているからちょうどいい。これしかないとぼくは思った。
会議が終わると、ぼくは彼をつかまえ、
「これからS村さんのことを村長と呼びますね」
「どうして?」

彼はキョトンとした。
「何となくです。村長って、響きがいいじゃないですか」
「やめてくれよ。人が聞いたら何だと思うじゃないか」
「いや、悪くないです。村長にしましょう」
「何だか知らないが、一方的だな」
彼は顔全体に疑問の色を浮かべたが、
「やめろといっても、どうせキミは聞かないんだろう?」
「ハハハ。わかりますか。そうと決まれば、今度の日曜日、競馬に行きましょう!」
「何で突然、競馬なんだ?」
「いいじゃないですか。気晴らしにもなりますよ」
「だけど、俺、やったことないよ」
「大丈夫です。全部ぼくが教えますから」
「何なんだ、キミは……」

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ぼくが競馬に誘ったのは、彼とゆっくり話をしてみたかったからだが、あの頃は毎週日曜日に競馬に行っていたので、彼を連れていけばその両方ができて一石二鳥だと思ったからだ。それに競馬場は開放的なので、お互いに適度に気が散って、男二人で遊ぶにはちょうどいいと思ったのだ。

村長を競馬場デビューさせる

ぼくらは駅で待ち合わせて中山競馬場に行った。入り口をくぐってすぐのところにパドックがあった。パドックとは、レースに出る馬をお客さんが下見をする場所で、競馬場によって形は違うが、一周だいたい50~60mくらいの楕円形をした庭だと思っていただければいい。

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パドックでは次のレースに出る馬が歩き、回りを大勢のお客さんが取り巻いていた。初めて来た競馬が珍しいようで、村長は人の間から首を伸ばしてパドックを覗き込んだ。
「競馬場ってこんなに小さいのか? テレビで見るともっと大きいような気がしていたが」
「違いますよ。レースはあっちでやります」

「そうだよなぁ。こんな場所じゃぶつかって走れないと思ったよ」
近くのお客さんがクスクス笑う声が聞こえた。初心者がやってきたと思われたのだろう。

S村さんは背が低いので、よく見えるよう背伸びしていた。
「村長、見えますか?」
そう言った途端、まわりの視線が一斉にS村さんに集中したのがわかった。前にいた人は振り返り、隣にいる人はこっちを向き、
「どこかの村の村長じゃないの?」
と、ささやく声も聞こえた。

S村さんは口を尖らせ、
「ばかやろう。ここじゃ村長って呼ぶのやめてくれ」
「でも、太った体型といい、本当に村長みたいですよ」
「とにかくここじゃやめてくれ! 目立ってかなわん」

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この日は二人とも全く当たらず、揃って損をしたが、S村さんはたった一回で競馬を気に入り、来週もやりたいといい出した。ぼくらはすっかり仲良くなり、それからは毎週末には一緒に競馬の研究をするようになった。
競馬と順序が逆といわれるかもしれないが、仲良くなると仕事も一緒にやりたくなった。部署は違っても関連する仕事はそれなりにあったので、希望して一緒にやるようにした。
彼は映像制作のベテランで、社内向けにビデオを制作する仕事をしていたので、ぼくはそのシナリオを書いたりした。希望すればその仕事をやらせてくれたのだから、当時の会社は柔軟だったということだ。

ついに、部長の嫉妬を察した課長に注意される

そんな関係がたしか1年以上は続いていたかと思う。
ある日、会議が終わって部屋を出ると、背後から
「ちょっと」
と声がした。

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