警察庁は、いわゆる「生活道路」の法定速度を60キロから30キロに引き下げる方針を打ち出した。住宅街や通学路などでの悲惨な事故が後を絶たない今、こうした見直しを期待していた人は多いのではないだろうか。
また、田舎道や山道での事故も相変わらず多い。先日は愛媛県内において、茶畑で農作業中の女性が突っ込んできた車にはねられて死亡するという痛ましい事故が起きたばかりだ。現場は見通しの良い片側1車線道路だったという。のどかな山間部で最悪の事態を招いたこの事故の原因は、運転していた60代男性の回復を待って究明されることとなる。
地方の生活道路・農道での交通トラブルについて、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は次のように指摘する。
「山道や田舎道は、あまり人も通らないだろうというドライバーの油断から、スピードの出し過ぎなどにより、時に悲惨な事故に繋がる場合もあります。また、何かとトラブルの多い農道は打てる対策も限られているのか、幹線道路などへの抜け道に使う人は依然として多いようです。こうなると、地元住民の不安・不満を解消する具体的な対策が必要ですよね」
今回は、とある田園地帯某町で夫が自治会長を務めているという女性に、年々ひどくなる交通マナーについてのお悩みを聞いた。
「最近は電気自動車などがまったく無音で近づいてきて、農道で作業の準備をしていたら、知らない間にすぐ後ろに来ていた、なんてこともあります。自動車の音が静かなのも良し悪しですよね」
こう語るのは、家族で農業を営む55歳の海老原菜穂子さん(仮名)。
「うちの住まいや田畑は市境に近くて近隣に幹線道路が2本通っているので、通勤の時間帯は双方向ともに車が多いんです。なので、多くの生活道路や農道が、通勤カーのショートカットに使われます」
菜穂子さん一家や周辺の農家は、通勤で混雑する時間帯に作業をすることは少ないが、それでも時折その時間帯に田んぼにやってくると、狭い農道を猛スピードで通りすぎる車を数えきれないほど目にする。田んぼから500mほどの場所にある自宅周辺の生活道路も、当たり前のように通勤用の抜け道となっているという。
「家の前も道幅の狭い生活道路ですが、物凄い勢いで車が通っていきます。また、太い道路と太い道路を繋ぐ数本の農道は、どれも自動車どうしがギリギリすれ違えるほどの幅です。
なぜこんな所をわざわざ通るのか、とにかく毎朝抜け道として使うドライバーが多く、非常に危険。抜け道なんか使わなくても、5分と変わらないんじゃないかと思うんですけどねえ」
先日も、朝田んぼの脇で夫と並んで立っていたところ、県道から侵入して猛スピードで近づいてきた車を見た。
「夫はもう腹が立っているものですから、腕組みしたまま避けずにその場に立っていたんです。もちろん、農道の脇でですよ。でも道幅が狭いので、隅っことはいえ、腕組みして仁王立ちになった夫の横を車で通り過ぎるには、徐行して慎重にならざるを得ないような状況です」
夫は、侵入してきた車両に対してまるで減速を促すかのようにその場を動かなかった。菜穂子さんは夫の体を押し、もっと端に寄るよう促した。
「車はほとんど減速せず、私たちがいた場所の手前まで、脅すかのように勢いよくやってきました。それで、ようやく減速したかと思ったら、運転していた40代くらいの男が通りすぎる時に窓を開け、私に向かって『来てんのわかってんだろ、どけよ。死にてえのかババア』と捨て台詞を吐いていったんです」
喧嘩っ早い夫はその車に向かって走り出したが、菜穂子さんは必死に止めた。
「県道の歩道は中高生が自転車でたくさん通行しますし、そもそも交通量が多いので、農道を抜け道にした車両が県道に強引に合流する時、とっても危ないんです。車が田んぼに落ちたことも数えきれないほどありますし、近所の方は畑に突っ込まれたこともあります」