上がらない給料と上がり続ける税金、物価のアンバランスさに多くの人が日々、辟易していることだろう。今回は以前なら勝ち組とされていた年収1000万円で生活が苦しくなる一方だと話すあるご家族に話を聞くことができた。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「株価が最高値を記録しましたが、まだまだ賃金の上昇には結びついておらず、インフレ状態が続いています。いま厳しい状況にある国民からは、不満が溜まっています」
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高林啓介さん(仮名・48歳)は、大学生と高校生の子どもを持つ父親だ。大手企業勤めの東京暮らし。30代で購入した家のローンを払って、15年になる。
「収入が1000万円台になってしまって…」。
その金額からは悲壮感は伝わらない。平塚氏はこう話す。
「所得税は累進課税制度を取っています。これは年収が上がれば上がるほど税金が高くなるという仕組みです。ご存知の方も多いことと思いますが、900万円を境にその税率がぐんと上がるんですね。年収がおよそ700〜899万円のゾーンに比べて10%もアップ。税率にして33%です。その上は40%と単純に考えて半分近くを税金で持っていかれることになります」。
とはいえ、暮らしていくのに困難なほどなのだろうか?
「国税庁の発表している令和3年度の民間給与実態統計調査によると平均給与は443万円です。啓介さんのご家庭は、その数字から考えると倍以上あるので、勝ち組と判断されてしまうことも多いでしょう。しかし、ご実家に住んでいて家賃がかからないとか、資産があるという人でなければ、実情は厳しいでしょうね」。
ネックになっているのは、息子たちの養育費だという。
「年収1000万円前後だとさまざまな公的補助が受けられないんです。児童手当も少なければ、高校無償化の枠にも引っかかりません。所得制限の壁が大きく立ちはだかっているんです」。
さらにこの春、大きな誤算があったという。
「高校まではなんとか都立で!と思っていたんですが、次男が第一志望校に落ちてしまったんです。これは大きな誤算でした。というのも次男は優秀で、模試でも志望校はいつもA判定。これですっかり油断していました。おそらく、当日力が発揮できなかったんだと思います。こういうこと、あるんですね」。
結果、次男は私立高校にいくことになった。東京都の場合、高校無償化に伴う補助は年収目安でいうと910万円がボーダーライン。910万円以上は住民税の状況で換算されるというが、1000万円以上は絶望的だ。
「入学金を見て驚きました。25万円ですよ。それから設備費、制服代、ダブレット代、交通費、毎月の授業料を合わせると80万近く。初年度はなんと100万円も必要なんです。長男は都立高校に通っていましたが、入学金は確か5000円くらいだったはず。年間の学費は、12万円程度です。およそ、10倍です」。
もちろん私立高校へ入学した場合も、全額を補助で賄えるわけではないが授業料分はまかなうことができる。
「さらに大学進学のための奨学金を借りようにも年収が邪魔をします。1000万円を超えると審査に落ちることもあるそうです。しかも、これ奨学金という名ですが利子のある、いわば借金です。無利子の奨学金の所得制限は確か600万円。長男はなんとか利子付きの奨学金を借りることができましたが、次男は絶望的ですね」。
啓介さんはいう。
「年収1000万円と聞くと勝ち組というのは過去の話。できれば妻にも少しでも働いてもらえたらいいのですが…」。
生活を少しでも楽にすべく、妻に働いて欲しいと言った啓介さんだったが、その一言が思わぬ波紋を呼ぶことになる。
「そもそも我が家は僕が金銭管理をしています。妻に任せていた時代もあったんですが、とにかく貯金ができないんですよ。あればあるだけ使っちゃう。さらにクレジットカードも持たせると危険で、お金を使った感覚がないのか、ものすごい勢いでいろんなもの買ってしまうんです。それに気がついたのは、新婚3年目くらいのとき。それ以来、基本的に僕が学費などの手続きもやるようにしています。妻には生活費を渡す形です」
だからこそ、啓介さんは家計が苦しいこともよく理解している。
「妻には食費や日用品の購入、それから彼女のおこずかいも含めて20万円渡しています。ローンや光熱費、通信費などは、すべて引き落としにしているので僕管理。彼女の生活費からは出ていませんから、どれくらいなのか知らないかもしれません」。
ある日のことだ。昨今の値上げで食費が上がっているから、少し生活費を増やして欲しいと妻が申し出てきたという。