「リハビリの甲斐あって、言葉はだいぶ出てくるようになったと妻は言っていましたが、代わりに最近起きたことを忘れたり、日にちや曜日感覚が薄らいだりしていることなどが気になるとも言っていましたね」
自分が遠く離れているうちに母の認知機能が低下していっているのではないか。幹人さんは不安になった。
あの真っ白な部屋を思い出すと、賑やかな場所が好きだった母が不憫だった。
「単身赴任を終えて地元の支社に戻れることが決まり、その頃には施設の面会も制限つきではありますが再開されていたので、時間を作って母に会いに行きました。
すると、母はだいぶ痩せて、手に鍋掴みのようなミトンをはめられていました。通している管を抜こうとしてしまうので仕方がなくこうしているという説明を受けました。人手が少なくなる一定の時間帯だけだし、本人にも説明していると」
幹人さんの母親は手の自由がきかない状態で、目に涙を浮かべていた。さらに、「さっきの人じゃないデブの女が怖いの。足とか手を乱暴に持つし、婆さんて呼んでくるの。あたし、家へ帰りたい」と幹人さんに訴えかけてきたという。
驚いた幹人さんは施設から妻に電話をかけた。
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