コロナが5類に移行されたこともあり、外食需要は回復傾向にある。一般社団法人日本フードサービス協会の調べによると2023年の売り上げは前年比の114.1%。ただ、売り上げ増の背景には、客単価の増加が影響しており、客数としてはまだコロナ前に達していないと推測されている。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「物価高などにより経営状況が厳しい飲食店も多いようです。特に宴会需要はまだまだ下火のよう。コロナ禍を機に忘年会や新年会などを取りやめる会社も少なくないようです」。
背景にはリスクマネジメント、そして世代間ギャップが見え隠れする。
「昭和の時代は飲みニケーションなる言葉があるほど、宴会は日常的でした。ただ、今は上司や部下など会社関係者と仕事後に会いたくない、飲みたくないと考える人も多いようですね。居酒屋など、お酒を提供する飲食店にとってはなかなか厳しい話です」。
今回は、世代間ギャップを抱えながら開催した送別会で起こったある出来事を男性が語ってくれた。
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滝本蓮二さん(仮名・45歳)は、都内のweb広告会社に勤めている。スタッフの多くは20代で、クリエイティブのマネジメント職として昨年入社した。
「仕事自体はなんていうか、やりやすいです。大手にいたときのスキルをもってすれば、ほとんどのことは解決できます。請け負っている案件が、小さいものばかりなのでね」。
以前勤めていた会社では、大きなお金が動く広告を主に担当していて、荷が重いと感じることも多かったそうだ。
「正直、そこまでの才能がなかったんだと思います。自分の仕事については楽にできますが、スタッフの未熟さというか、社会人とは思えない行動に驚くことも多いです。報連相ができないとかは日常茶飯時。その尻拭いをさせられることも多いんですよ」。
未熟な若者たちへの指導は大変だが、それでも大手で働いていたときのストレスよりはマシだと思っていたそう。
「そうですね。まだ転職して1年ですし、なんとか頑張ってみようとは思っていました。ただ、当初から飲み会については、思うところがありましたね。というのも彼らはお給料もそんなに高くないので、どうしても安い店になってしまうんです。それは仕方がないんですが、飲み方もまだまだ若くて、コール一気とかカラオケでテキーラ一気飲みとかあって…。毎週誘われるんですが、ちょっと行く気がしなくて月1くらいにとどめています」。
事件が起こったのはある社員の送別会だったそう。長く働いてきた社員だったこともあり、いつもより少しいいお店での開催が許されたらしい。
「幹事になったのは26歳の同期コンビ。普段から仲が良く、飲み会に率先して参加するタイプです」。
日程が決まり、いよいよ店選びになったときのことである。蓮二さんは相談を受けることになる。
「いつもよりちょっといい店というお題に苦戦をしていたようで、私に白羽の矢が立ったんです。私は前職のこともありますし、飲食店は結構知っている方だったのでちょうど良さそうな店を何軒か紹介しました」。
中華、イタリアン、和食居酒屋、ダーツバー、どれも蓮二さんのお気に入りの店で今も時間があれば、行くことがある店ばかりだ。
「なかでもイタリアンはかなり行きつけで、お気に入りのお店でした。そのことは言いませんでしたけどね。最終的にそのイタリアンが第一候補になったというところまでは話を聞いていました。ただ、最近忙しくて、それ以降の話を聞いていなかったんです」。
イタリアンになったと思っていた蓮二さんだったが、開催2日前に来た送別会のお知らせメールを見て驚くことになる。
「お知らせが開催2日前ということにも驚きましたが、店が違うことにも驚きました。別に私が紹介した店を使って欲しいというわけではありませんでしたが、まるで違う和食居酒屋になっていたので」。
蓮二さんは幹事2人にさりげなく、店決定の経緯を聞き、驚愕することになる。
「僕が紹介したイタリアンの予約を昨日キャンセルしたというんです」。
20人の貸切を開催3日前にキャンセルしたということになる。【後編】では詳しい経緯と蓮二さんの想いにフィーチャーしていく。
取材・文/悠木 律