夢の世界・宝塚歌劇団で起きた痛ましい事件が、今年のニュースで大きく報じられた。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「いじめと聞くと若い世代の話に思われがちですが、残念ながら社会厚生労働省が発表している個別労働紛争解決制度の施行状況によると総合労働相談件数は15年連続で100万件を超えて、高止まり。相談や助言・指導の申出、あっせん申請、全ての項目でいじめや嫌がらせの件数が最多となっています。学校でのいじめで登校拒否に陥ることがあるように、職場でも出社拒否を起こすケースもあります」。
昨今はパワハラ、セクハラなどハラスメントとして捉えられていることの多くもいじめの一部であるという。
「特に怖いのが集団心理です。狭い社会で生きていると世間の常識とは異なる常識に染まってしまうことがあります。みんなが言っているから、やっているから…そんな安易な考えは、捨てた方がいいでしょうね」。
今回はまさか自分いじめの犯人になってしまうとは思ってもみなかった、そう話す女性に話を聞くことができた。
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岡本涼子さん(仮名・45歳)は今の会社に新卒で入社して、勤続22年。すっかり古株の1人になった。
「アパレル業界は、女性が多いのでそういった意味ではほかの会社に比べるとずいぶん働きやすかったのかもしれないですね。私のほかにも同じように勤続20年超えの社員がほかにもいます」。
そんな涼子さんは今は、ブランドのPRを束ねるボス的な存在だ。
「弊社にはいくつかのブランドがあって、それぞれPRがいます。私はそれを統括するような立場です。責任のある立場ですが、やりがいもあり、仕事がすごく楽しいですね」。
溌剌としたその印象からは、いじめというキーワードは連想しづらい。
「こう言うのもアレですが、自分でもそう思っていました。サバサバ系と言いますか…。だからこんなことになって、正直本当に驚いているんです」。
問題が起こったのは、今年の夏のことだった。涼子さんの会社では年に数回、部署ごとに集まって慰労会的な飲み会が開かれる。涼子さんの部署では、2回の展示会後と年末の合計3回行われているそう。
「PRアシスタントの子達が店を剪定して、出欠を確認しながら予約をするというのがお決まり。美味しさはもちろんですが、話題性とか立地と値段とか、色々を鑑みて店をセレクトすることは、仕事にも通ずると思っています。だからこそ、若手に任せるようにしているんです。それに新しい店に行くのも楽しいですしね」。
こうして涼子さんをはじめとする面々は、そのセレクトを楽しみにしていたそうだ。
「ちなみにこの会は、食事の後カラオケに流れるのが基本。だから、カラオケ店もセットで予約が必要です。このお店からカラオケまでの距離も結構重要で、遠からず近からず。ちょっと酔い覚ましがてら歩けるのがベストと私は思っています」。
この風習は、何も涼子さんが始めたわけではない。
「なんなら私もアシスタント時代、何度も何度も予約を取りましたよ。その度、ネチネチ言う先輩もいて、嫌だな〜とか思っていました。でも、数をこなすとだんだんアタリの店を手配できるようになるんですよね〜。のちのちの業者との会食にもこのアドレスは役立っています」。
そうして、今回の秋も宴が催された。しかし、だ。
「実は今回のお店、ちょっといろいろと残念なところがありまして。例えば、2時間制だったんですがラストオーダーが30分前。料理ならまだしも、ドリンクもですよ?しかも味もさほど、よくなくて。さらにカラオケの予約を忘れていたみたいで結局、どこも空いていなくてなんだかイケてないカラオケ屋にいきましたが、気分は駄々下り。ここ数年で1番よくないセレクトでしたね」。
かなりの酷評だ。しかし、こんなことは珍しいという。
「基本的に先輩に店をチェックしてもらって、ダメ出しを受けるので大きな失敗はないはずなんですが…。なんでこんなことになってしまったのか。正直、これを楽しみに展示会を乗り越えた感があったからこそ、残念でしたね」。
そんな残念な宴の翌週、月曜日の定例会議でのことだ。あるアシスタントが挙手をして発言権を求めたという。
「会議も終わりかけのことでした。彼女が話したのは、慰労会のあり方についてでした。アシスタントに負担が多すぎるから、やめたいと言うのです」。
涼子さんはまさかの発言に驚いたと話す。
「まさかそんなことを思っていたなんて…。さらに驚いたのは、カラオケへ参加、そして歌の強要はいじめに当たるというんです。しかも、彼女泣き出してしまって…」。
【後編】では、アシスタントの彼女が訴えるいじめの内容と涼子さんの考えるいじめとの相違についてさらに詳しく迫っていきたい。
取材・文/悠木 律