福島県二本松市にある東北サファリパークで飼育員がライオンに襲われ、死亡する事件が起こった。飼育員は勤続27年のベテランだったという。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「また痛ましい事故が起こってしまいました。今回は閉まっているべき扉が空いていたことが原因と言われています。こういった事故が起こったのは、1度や2度ではありません。人間はミスをする、それを前提に対策をする必要がありますね」。
動物園や水族館で事故が起こるたび、巻き起こるのが動物園不要論だ。
「人間のエゴと言ってしまえば、それまで。ただ、子どもの頃、図鑑でしかみたことのなかったライオンやゾウ、キリンを目にしたときの感動を忘れられないという人もいるでしょう。普通に生きていては出会えない動物に会うことができる、そこには地球に多くの生態系があるとリアルに感じられるという価値もあります。一般的にペットとして人間と暮らすことができるのは、犬や猫、うさぎやハムスター、魚、爬虫類くらいですから」。
動物園が不要だと即答するのは、なかなか難しい。ただ、動物の生死を安易に人間が握っているのだとしたら、それは大きな問題だとも言える。しかし、現実には握ってしまう例も少なくない。例えば犬猫の殺処分問題だ。その数は減ってはきているものの未だ数多くの命が奪われている。
今回はそんな殺処分を危惧し、保護猫を家族に迎え入れようとした女性に起こったトラブルについて話を聞いていきたい。
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上田きくのさん(仮名・52歳)は、子どもの大学進学を機にこれまで飼っていた猫に加え、もう1匹保護猫を家族に迎え入れることを検討していたと話す。
「うちには猫が1匹います。その猫は、友人の家で産まれた猫で今年で10歳になります。人間で言うと50代なので、私と一緒ですね。病気をすることもなく、元気に育っています。ただ、猫の寿命は15歳前後なのでもう半分以上は過ぎてしまっていますね…」。
娘、息子が大学に進学して、家を出たこともあり、タイミングが合えば、もう1匹猫を迎え入れようと考えていたという。
「でもこういうのは、出会いですから。犬や猫が売られていることに違和感があるんです。命が目の前でお金と引き換えにされているんですよ?信じられないことです。フランスでは2024年からペットショップでの犬猫の販売が禁止されるそうで、素晴らしいなと思っています。そんなわけで、どこかで譲渡してもらえるならお迎えしようと考えていたんです」。
とはいえ、自分で譲渡会に出向くことはなかったと話す。
「譲渡会のシステムがあまり良くわかっていなかったこともあって、なかなか行きづらくて。今になれば、きちんとした団体から、きちんとした手順を踏んで譲渡を受ければよかったと思っています」。
きくのさんはある日、地域の看板に保護猫譲渡のチラシを見つけたんだという。
「ご近所で産まれた猫を保護していると記載されていました。住所は隣町でした。これなら直接、お迎えにもいけるなと安易に思って連絡をしたのが始まりです」。
記載されていた電話番号にまずはショートメールを送って、返信を待ってみたという。
「びっくりするほど、すぐに連絡がきました。LINでの連絡に切り替えるよう誘導されたので、そのままLINEを登録。もしよければ、一度会いにきませんか?というお誘いを受けて、週末に見にいくことにしたんです」。
その日はちょうど夫の都合が悪く、きくのさんは1人で赴いた。
「住所を尋ねるとそこは、古い一軒家でした。私だけかと思ったら、数人見にきている人がいました。猫は全部で5匹。近所で保護したとチラシには記載されていましたが、自宅の庭によくきていた猫が出産をしたとのことでした。見に行ったときは、ちょうど4ヶ月くらい。成猫に比べるとまだ小さくて、本当に可愛かったことを覚えています」。
きくのさんはその場で気に入った1匹のトライアルをお願いしたという。
「とっても可愛いサビ猫の女の子です。一眼見て気に入ってしまいました」
譲渡をしてくれるのは、どんな人物だったのだろう?
「お相手は私より少し上くらいの女性でした。お1人でお住まいだと話していました。もしよかったら、数匹でトライアルしないか?としつこく聞かれたんですが、我が家には先住猫もいましたので1匹でとお断りしました。別の方は押し切られて2匹でトライアルすることになっていたようでしたけど」。
このときは少し強引だな、くらいにしか思っていなかったと話す。
「いつからトライアルできるかと聞かれましたので、1週間後はいかがですか?と言ったんです。そうしたらできればもう少し早くがいいと。部屋の用意やゲージ、トイレなどを用意しなければならないので、そんなに急にはできないと思ったんですが押し切られる形で、トライアル開始日は5日後に決まりました。当日、彼女が猫を家まで運んでくれるとのことでした」。
きくのさんは急いでさまざまな準備をしたという。1階の息子の部屋を子猫用にして、先住猫とは徐々になれさせる予定だったと話す。
「先住猫はとても温厚なタイプでしたが、他の猫と暮らした経験は幼少期のみ。本を読んだり、かかりつけの獣医さんに相談したりして、ゆっくり慣れさせるほうがいいと判断しました。お互いの相性もあるでしょうしね」。
こうして楽しみにしていた当日。きくのさんはいきなり面食らうことになる。【後編】保護猫譲渡のトラブルの詳細についてお届けしていこう。
取材・文/悠木 律