投稿には以下のような内容がある(以下、引用)
――ハンバーグはたっぷりのラードを混ぜて、たっぷりのラードで焼く。
砂糖は発ガン性のある人工甘味料に変えて、発ガン性のあるテフロンのフライパンを使う。いろいろ考えたけど、結局は塩、油、砂糖をたっぷり摂取させることが早道だと思う。
――奴が食べるおかずに中国製の味の素を大量に投入した。(中略)
あと、アルミ入りのベーキングパウダーもいれた。アルミは認知症になるらしい。やつが飲むダイエットコーラに砂糖を入れておいた。糖尿になりますように。認知症になって糖尿になって、痛風になって死にますように。
書き込みには「イイね」ボタンがついているのだが、旦那デスノートの場合は少しだけ違う。「死ねばイイね」なのだ。
投稿には、いくつもの「死ねばイイね」ボタンが押されており、妻たちの本気度が伝わってくる。
美穂子さんは続ける。
「書き込みこそできませんが、うっぷん晴らしとしてこのサイトを読むのが日課になりました。
夫への罵詈雑言を読んでいるだけで、夫婦げんかをした際には、胸がスカッとする時もありましたね。
そうそう、主婦仲間に『汚料理レシピ』の件を伝えると、仲間の一人が驚きの告白をしてきたんです。4歳の娘さんがいる30代の主婦ですが、酒を呑むとDV男になる夫にいつも恐れていて……。」
美穂子さんは声を潜めた。
訊けばその友人は、夕食時に夫の食べる餃子と焼きそばに、キッチンの三角コーナーの中身(なかば腐った野菜クズと汚水)を料理にかけて出したのだという。
数時間後、夫は腹痛と下痢を訴え、二日間寝込んだそうだ。
「夫が苦しむ姿を見て、友人は『いい気味。もっと保険金をかけておこうかな』と腹の中で大笑いしたそうです。私は驚きに固まってしまったんですが、主婦仲間たちも『よくやったわね!』『私もクズ亭主にやろうかな』と拍手喝采でした。
私もその場は空気を読んで笑顔を作ったんですが、もしも旦那さんが死んだ場合、知人が逮捕されないかすごく心配で……。いえ、それ以上に、私も共犯者扱いされたら本当に困ります。
最近は会うたびに『旦那デスノート』の話題で盛り上がるので、正直、ウンザリ。あのようなサイトは、一人でひっそり読みたいなと思って……」
「投稿ではもっと恐ろしいことも書かれてありました。夫の料理にだけ、鎮痛剤の粉末を混入させたり、解熱剤を砕いて混ぜたり……。ここまでくると、立派な殺人未遂にならないのかしら。
ただ、怖いもの見たさで書き込みが気になって毎日読んでしまう……そんな自分にも嫌気がさしています。でも、やめられないんですよね。夫への恨みを見知らぬ誰かが晴らしてくれていると思うと、脳内で快楽物質が出ている感じで」
サイトには「デスノート効果あり報告」の書き込みもあるという。
つまり、何らかの禍(わざわい)が夫に起きたのだ。
美穂子さんは言葉少なに語る。
「匿名とはいえ、このサイトを警察が解析したら、送信者が特定されるのではないでしょうか?」
後編では「デスノート効果あり報告」の内容をご紹介していく。
TEXT:蒼井凜花