「お前が旅行なんか行ったら誰がメシ作るんだ、と言われたというんです。店屋物でもなんでもあるじゃないの、と母が強気で言うと、父は『そうか、そういう腹か。わかった』と言ったきり、しばらく口をきいてもらえなかったそうなんです。行きづらくて、結局は旅行を断念したんだそうで、そのことも未だに許せてないみたいです」
なるほど。さやかさんの母は、ただ単に退職して毎日家にいる父が疎ましいというわけではないらしい。
「母は日に日に語気を強めています。『ああいうのを濡れ落ち葉っていうのよ』『顔見るだけでムカムカする』『できればぽっくり逝ってほしい』なんて平気で言うんです。上品で穏やかだった母があんな言い方をするなんて。もはや別人ですね」
平日の自由さと週末の家族で過ごす時間とを使い分けてバランスを取りつつ、40年以上かけて自分のペースを確立してきた母。娘の目には、母がそのペースを乱された、という被害者意識で凝り固まっているように映る。
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