トゥカナ・パープルに輝く”夜空モチーフのゴースト”
ひと口に自動車ブランドとか自動車メーカーと言っても、誰を対象にどんなクルマをつくるかですべて異なります。同じ4つのタイヤで路面を走るものでもここまで違うのかと思わせるほどです。今回ロールス・ロイスが行ったプレゼンテーションではそれが自然と伝わってきました。ロールス・ロイスには“既製服”的概念はなく、一台一台がビスポークでスーツをつくるように仕立てられているのだと。
もちろん、すべてのモデルが完全なビスポークというわけではありません。もはや年間6000台に達するメーカーですから、デフォルトとなる仕様を提案し、そこにオプションをプラスしていくスタイルもあります。通常のクルマのようにカタログの中からボディカラーやシートカラーを選びます。それでもシートベルトやヘッドライナーまで選べるのは特殊。「これしかないんです」とはならないようです。
そしてそれを上回るのがビスポーク、いわゆるフルオーダーです。今回来日したアジア太平洋&ヨーロッパを担当するビスポーク部門の責任者クリストファー・コーデリー氏が手がける領域となります。
そんなビスポークには2つの種類があります。ひとつは直接カスタマーからオーダーを受けるパターン。もうひとつはロールス・ロイス・モーター・カーズから提案する特別なコレクションです。先日そんな特別なコレクションから一台日本に持ち込まれました。トゥカナ・パープルに塗られたゴーストです。この紫は南半球で見られる“きょしちょう座”を囲む夜空をモチーフにしたそうです。正直よくわかりませんが壮大なイメージですね。
実はその話を聞いて、個人的には至極腹落ちしました。というのも、ロールス・ロイスがモチーフにしたのは自然現象。他のどのメーカーも想像しない領域です。
なぜ腹落ちしたかは、これまで彼らが提案してきたビスポークの中身を見てきたからです。一番印象的だったのは2012年のパリオートサロンでお披露目された“アール・デコ・コレクション”。当時時代はコラボブームで、各ブランドがそれを提案していました。お相手は有名スポーツ選手やセレブリティ、アパレルブランドなど。ビジネス的にウケそうな気配がします。
ですが、ロールス・ロイスは違った。モチーフにしたのは“アール・デコ”、つまり時代そのままです。想像を超えたストーリーはとても印象的で、なんと言いますか、スケールが違います。さすがロールス・ロイス、ピナクルなブランドです。これじゃ他のブランドがどんなにハイエンドなブランドとコラボしても陳腐に見えてしまいます。
これだけではありません。最近では皆既月食をモチーフにした“ブラック・バッジ・ゴースト・エクリプス”や琥珀の道として知られる交易路をモチーフにした“ゴースト・アンバー・ロード”をリリースしました。前者は25台、後者は12台の限定です。
といった背景を受けて前述したクリストファー・コーデリー氏の宿題に回答したいと思います。お題は「ビスポークのテーマ」。広く自由な発想を集めたいということでした。
まずは“アール・デコ”に倣って“アール・ヌーボー”や“ベルエポック”、“バウハウス”なんてのが考えられます。でも、それはたぶん彼らも想定内でしょう。“アール・デコ”を考えた時点で思い浮かんだはずです。となればここは日本式に“安土桃山”とか“江戸300年”なんてのがいいかもしれません。もしくは戦国時代をテーマに“SENGOKU ERA”みたいな。戦国武将をモチーフにデザインしたら相当かっこいい気がします。大谷翔平も兜をかぶっていることだし。
次に浮かぶのは自然現象です。すでに皆既月食は使われていますが、それ以外にもたくさんあります。でも、台風や偏西風、貿易風などは目新しくありません。マセラティやVWが風の名前をさんざんモデル名に使ってきました。まぁ、そこも彼らにしてみれば想定内でしょう。
で、あれば個人的に専門知識もあるサーフィンのポイントで提案したいと思います。北カリフォルニアのハーフムーンベイで起こるビッグウェーブ、その名は“マーヴェリックス(Mavericks)”です。条件が揃った時にたつその波はまさに襲いくる猛獣のようで、世界中のサーファーが挑戦してきました。サーフィン映画でも取り上げられるポイントなので、サーファーは皆知っています。
詳しい資料は添付しませんが、「Mavericks,California」でウィキペディアで見られますから、クリストファー・コーデリーさん、チェックしてみてください。どうです、“マーヴェリックス”をモチーフにゴーストのビスポークを仕上げるなんてのは。そうそう言い忘れましたが、ワタクシモータージャーナリストの傍らサーフィンメディア“NALU”の編集長もしております。波に関してはお任せを。