「揚げ物は一度しっかり火を入れてあれば、衛生的には割と大丈夫なイメージですけど、前の日の晩に作った唐揚げなどを、妻が温めないでそのまま弁当箱に詰めちゃうのって大丈夫なんでしょうか。今のところ大丈夫そうですが」
作り置きおかずは再加熱し、さらにしっかりと冷ましてから弁当箱に詰めることが推奨されているようだ、と記者が答えると「えー、そうなんですね」と茂之さん。
「うちの妻は前日の残り物を冷蔵庫で保存し、朝冷たいまま弁当箱に詰めてます。私はお腹が弱い方なので、『これは前の晩かそれ以前に作られたものだ』と思うだけでちょっとお腹が痛くなってしまうんです」
前日作ったおかずを冷たいまま弁当箱に詰めている茂之さんの妻だが、その方法で持たせた揚げ物で夫がお腹を壊さないことを確認すると、次は炒め物や焼き魚も次々に『いけるかどうか』試し始めたのだそうだ。
「毎日家に帰ると、お弁当美味しかった？じゃなくて『大丈夫だった？』って聞くのが怖かったですね」
茂之さんが「大丈夫だったと思う」と答えると、妻は小刻みに頷き、「前日おかず、全然いけるじゃん」と嬉しそうだったという。
「でも、それだとおかずのバリエーションが少ないので、煮物やサラダなどの作り置きおかずもどんどん弁当に流用するようになりました。冬場には幸いトラブルがなかったんですが、今年のゴールデンウィーク直前に、一度私がお腹を壊したんです」
そのときのお弁当のおかずは、前日の夕食で多めに作られた豚の生姜焼きとポテトサラダ、ほうれん草のお浸しだったという。
「妻は『どのおかずも作ってすぐに冷蔵庫に入れたし、保冷剤も入れてあったから、腹痛はたまたまだったんじゃないの？』と言いました。そう言われると証明のしようがありませんよね」
そうは言っても、妻は夫がお腹を壊したことが気になったようだった。それは、茂之さんを心配してのことではなく、保育園に入ったばかりの長男の運動会が１ヵ月ほど後に控えていたからだった。
後編では、妻の前日おかずに対する過信と、その結果、茂之さんの身に起きた悲劇を詳報する。
Text：中小林 亜紀
