【前編あらすじ】男性アイドルオーディション番組を見て芸能界に憧れた豊さん(仮名・21歳)は、家族の反対を押し切って沖縄の離島から上京。アイドルオーディションを受けるが、落選の日々が続く。
レッスン代や生活費を稼ぐため、ゲイ専門のウリ専バーで働くことを決心する。バーテンと偽った募集だったが、稼ぎの良さに惹かれたのだ。初出勤の日、豊さんは他のボーイたちとともにカウンター内に並び、上半身裸で品定めされて――。
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「ヒョウ柄ジャケットの男性客は、僕の好みではなかったらしく、すぐに別のボーイ3人を指名し、テーブル席に呼んでいましたね。指名料は500円と安く、店内で酒を呑みながらボーイとの相性をさぐるらしいんです。15分ほど経つと、客は1人のボーイを選び『今日はこの子にする。4時間コースで』と言って彼の腰を抱きよせました。4時間コースと言えば8万円。そのうち7割の5万6千円がボーイの懐に入ります。羨ましいというのが正直なところです。ボーイのほうも『選んでくれてありがとう』とばかりに、彼にすり寄って……店長が『いつものラブホテルを予約しますね』と笑顔で言い、客もうなずいてご機嫌で出て行ったのが印象的でした」
豊さんは再び待機席に腰をおろした。
そして、2人目の客が来店した。
「反射的に大声で『いらっしゃいませ!』と立ち上がっていました。そして、ボーイたちに視線を這わせる男性客に『僕を選んで』と訴えるように、目に力を込めたんです。
2人目の客はスーツを着たビジネスマン風の男性でした。年齢は30代半ば。その客にも店長は新人の僕を勧めていましたが、選ばれたのは店内でもっとも美形だと感じた25歳のボーイです。塩顔で整った顔立ちに長身のモデル風の男性でした」
指名を受けたボーイたちが客とともに消えていく様子をみて、豊さんは落胆したという。アイドルどころか、自分は男娼としての価値もないのかと。
事態が変わったのは午後11時頃だ。
「茶髪で長身スリムな男性が入ってきたんです。光沢ある黒の細身のコートを羽織って、ただならぬオーラを放っていました。慌てて立ち上って挨拶をすると、店長が『ジェイさん、いらっしゃいませ』と歩み寄り、店内にあるボーイのプロフィールアルバムを見せたんです」
店長との会話から、ジェイと呼ばれる男性はこの店の常連だと察した。しかも、身に着けている時計や指輪、ブランド製のバッグから一目でリッチな人物と分かったという。
「僕は店長に呼ばれ、男性の席に着きました。彼はじっと僕の顔を見ると、『カラオケは得意かな?』と訊いてきたんです。
40代と思しき中性的なタイプです。ボーカルレッスンに通っていた僕が『得意です』と答えると、徳永英明さんの『レイニーブルー』をリクエストされました。初めて歌うナンバーでしたが、レッスン仲間が歌っていたこともあり、何とか歌い終えると、お客様は『上手だ。気に入ったよ』とその場で指名をもらったんです。店長が『初物です』と伝えると、『わかった。これでいいな?』と人差し指を一本立てたんです」
豊さんは「えっ、100万?」と目を見張ったという。
店長がうなずくと、彼は振り込む旨を口頭で伝えた。「初物100万」は嘘ではなかったのだ。