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LIFESTYLE 女たちの事件簿

「どうせ女目当てだろ?」「志村けんみたいな?」いま、密かなブーム。バレエにのめり込む中年男たちへの「根深い偏見」

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ひらめいてからの由里子さんの行動は早かった。彼女の夫のように男性バレエダンサーに魅了される人はたくさんいるはず!そう考えて、ジムの会員ではない一般の人にも開放して、オンライン上で男性だけのバレエレッスンを行ってみたのだ。

「オンラインだから」という気安さと、コロナ禍で行動制限されて新しい何かを求めている人が多かったことが幸いして、彼女の企画した「男性だけのバレエレッスン」は盛況のうちに第一回を終えた。講師はもちろん45歳の現役男性バレエダンサーだ。

「私は実は幼いころからバレエを習っていたので、正しい姿勢を作るだけでもとても大変だということは知っていましたが、レッスンを受講して下さった多くの男性たちは『バレエって何かもよくわからない。』というところからスタートした方ばかり。

事前に熊川哲也さんの動画なんかをご覧になって、『あんなことを急にしたらケガをしそうだ。』とか『身体が柔らかくないといけないんでしたっけ?』とか『何をするのか興味があって……』なんておっしゃる方もいました。講師の男性ダンサーの方がそんな一人一人の疑問に答えながらまずはバレエの正しい姿勢を…と言って股関節を外に回したり、お腹に力を入れて立ついわゆる『引き上げ』というものについて説明していると、画面の向こう側からはうめき声がたくさん聞こえていましたよ」

そう言って由里子さんはけらけらと笑った。そしてまた真面目な顔に戻って話を続ける。

「今40代以上の女性でバレエをはじめられる方が多くて『妻があまりにもはまっているのでどういうものなのかを知りたかった。』という方も結構いらっしゃったので、そんな方々には『ずっとバレエを続けられて、奥様とパ・ド・ドゥをなさるっていうのはどうですか?』とお勧めしました。ご夫婦で共通の趣味を持たれるっていうのは、特に熟年夫婦については結構いいことです。子どもさんが独り立ちなさった先輩のご夫婦は『犬を飼うか、同じ趣味を持つかだ。』なんてよく仰っていましたけど、今はお二人でバレエをなさっていますよ。ただ、ご夫婦であればまだレッスンには通いやすいようですけど…。」

そう言ってうつむく由里子さんの方に、大柄でスレンダーな男性が颯爽と近寄って来た。
背筋はすっと伸びていて、身のこなしは優雅で見とれてしまうほどだ。そして何より自信に満ちている。

「どうも」

そう言って頭を下げたのは、由里子さんの夫健吾さんだ。とても40歳オーバーには見えないスタイルは、3年間続けたバレエの賜物だそうだ。由里子さんの隣に腰掛ける動作も滑らかで軽やかだった。

「妻の言う通り、オンラインレッスンの時は良かったんですけど、実際教室に習いに行くかどうかはかなり迷いました。基本的にどの教室も女性と一緒にレッスンを受けるシステムになっていて、しかもほとんどが女性。

身体にぴたっとはりつく水着みたいなレオタードというものを着ている女性が20人もいる中に一人で行くなんて無理だと怖気づいていました。こっそり見学に行ったこともあったのですが、『何しに来たの?』というような女性たちの視線が自分に突き刺さるような気がして、2分程見てすぐに帰りました。

数年前に、何度もバレエ教室の見学に訪れていた男性が、その教室の女性講師に危害を加えるなんて事件があったなあなんてことも思いだしてしまって…。入会を希望したら、他の生徒さんだけではなくて講師の方にも嫌がられるだろうとかも考えました。多様性が認められている時代なので、僕が気にしすぎだったのだと今は思っていますけど、3年前は、『バレエ教室に行く』というのはとても高いハードルでした。ハードル……というか、壁かな。どうせ女目当てなんだろ、みたいなことも言われましたし」

そう話す夫の顔を、由里子さんは嬉しそうに見つめながら

「壁が高いと言いながらも、彼はバレエをすることをあきらめられないみたいでした。そんなに悩んでいるならまずは舞台を観てみよう!ということで、私の友人が所属しているバレエ団の公演を観に行たんですけど、そのせいでバレエ熱はより高まったみたい。その頃もまだコロナの影響はあったので、拍手しかしてはいけないし、かなり観客の数を減らしての公演でしたけど、大きなバレエ団の公演だったので男性ダンサーが数十人いました。彼らが群舞というみんなで踊るような踊りのところは迫力があって、彼はとても感動して『あんな風にたくさんの男性で踊れたらいいのに。』って何度も言っていました」

☆次回では、密かなブームとしていま注目を集める「男性のバレエ」の偏見と、それに屈せず打ち込む男たちの姿をレポートする☆

ライター 八幡那由多

▶︎颯爽と近寄って来た男性の正体とは。バレエ男子の苦悩とは。後編に続く。


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