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LIFESTYLE 女たちの事件簿

【小金持ちの晩節】蕎麦打ちだけが趣味だったのに…内気な小金持ち老人を「ホームの問題児」に変えた悪友の囁き。

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不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。

人生の集大成を迎える老後期。しかし、そこには思いもよらない落とし穴が待ち受けていることもある。

近藤康(仮名・72歳)は、妻に先立たれ、去年から住宅型の有料老人ホームに暮らしている。ホームといってもキッチンやバスルームがついたワンルームのような雰囲気だ。

「2年前に家内を癌で亡くしました。30年ほど暮らした1軒家は、1人で暮らすには広過ぎて、もう少し小さなマンションやアパートに引っ越しを考えていたんです。娘と息子がいるんですがね、ともに自立していて家族もいますし、そこに世話になるのも気が引けてしまって……」

娘と息子に相談するとこう提案されたという。

「今から1人でマンションを借りるのもアレだから……と有料老人ホームを勧められたんです。年寄り扱いされたようで最初はムッとしたんですが、見てみると案外暮らしやすそうで。何かあったときにもこれなら安心だし、入居を決めました。お金の心配はあまりありません。というのも家内はとてもしっかり者で退職金はすべて残っていましたし、それとは別に貯金もありました。家も売りましたしね」

こうして康は、多くの人が望む悠々自適な老後を送ることになった。そんな老後の趣味となったのが料理だ。かれこれ、1年以上続いているらしい。長続きの秘訣は、作りたいときに作りたいものだけを作ること。それができたのは老人ホームに食堂があったからだ。作りたくない日はそこで食べればいい。

「何気ない料理も作りますが、特にハマったのが、蕎麦やうどんを打つこと。回数を重ねる度、上手くなっていることが自分でもわかるのがイイんです。でも毎日というわけにはいかないので、食堂も結構使っていますよ。

食堂は安くて美味しいですし、何より人と会話をしながら食事ができるのがいいですね。初めは顔見知りでしたが、今ではなんでも話せる友人も数人できました。なかでもハツネという女性がいて、彼女とは特に意気投合しました。年齢は私より少し若いくらいで、確か秘書か何かだったと話していたかな。英語も話せるそうで、溌剌とした印象で、老人ホームという言葉が似合わない風貌でしたね。そして彼女もまた未亡人でした」

©︎Getty Images

ハツネはいつも輪の中心にいるような明るく華やかな人だったという。そして康とハツネ、そのほか数人は、食堂で顔を合わせれば、一緒に食事をするグループのようになっていった。

「あるとき、私がうどんやそばを打つ話をしたら、すごく盛り上がったので、そばパーティーをしようということになったんです。実際のところ、5、6人集まるには部屋が狭いなとは思ったんですが、当日は都合の悪い人がいて、結局来たのはハツネともう1人だけでした。

部屋で会うと食堂で会っているときとは違って、いつもより親密な気がしましたね。それに自分が打ったそばを人に食べてもらうのは、初めてだったので緊張もしました。2人が美味しい、美味しいと食べてくれて、本当に嬉しかったことをよく覚えています」

食後のお茶を飲んでいると友人がある提案をしてきたという。

「たまには外に遊びに行かないかって。その友人は色も黒くてアクティブな印象だったから、てっきり登山とかトレッキングとかそういうのだと思っていたんです。でもよくよく話を聞いていると誘われたのはアウトドアではなく、競馬だったんです。私はギャンブルをやったことがほとんどなかったんですが、美しい馬を見るだけでも楽しいよと聞きましたし、ハツネも行く気になっていたので、参加を決めました」

土曜日の競馬場はとにかく混んでいた。酒を飲んでるもの、タバコをふかしているもの、身なりの汚いもの……そこに集う人たちは、普段康が付き合っている人とまるで違うように思えた。

「場違いだなって、すぐに来たことを後悔しました。駅を降りてから、ずっとどこか淀んだ空気感で居心地がすごく悪かったんです。でも、場内に入るとその印象は一変しました。目が覚めるようなグリーンの上を馬が走り抜ける姿は、本当に美しくて見惚れてしまいましたね。その日は馬券を買うつもりはなかったんですが、友人にせっかくだしと勧められ、生まれて初めて馬券を買いました。その日賭けたのは5000円くらい。まるで当たりませんでしたが、馬は綺麗だったし、人生経験にもなったし、来てよかったなと満足して帰りました」

康は競馬にハマることはないとこのとき、強く感じたという。ただ、友人に続き、ハツネが競馬にハマったこともあり、毎週誘われるがまま、競馬場に通った。競馬が楽しいというよりは、ちょっとしたお出かけのような感覚だったと話す。

「家で料理ばかりしているのもあれでしたし、本を読んだり散歩をするのにも飽きていたんです。競馬が外出の口実になったくらいの感覚でした」

康はどんなときでも財布に20万円を入れていた。それは仕事をしている頃からのお決まりで、使うということではなく、男としてかっこいいと思っていたからだ。競馬場に赴く際にももちろん同じ額をいれていたが、1日に使うのは馬券や食事代を含めて1万円までと固く決めていた。事態が変化したのは半年ほど経った頃だった。

「ハツネが、友人なしで2人で競馬場に行こうと誘ってきたんです。ハツネは競馬上級者の友人から、賭けすぎだとか、その連番はないとかあーだこーだと指図されるのが、どうも気に食わなかったらしいんです。確かに友人は競馬のこととなると高圧的な態度を取ることがありました。私自身は競馬がよくわからなかったので、任せられて楽だったんですが……」

危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は言う。

「ギャンブルの中でも競馬は、趣味として近年気軽に楽しめるようになり、老若男女問わず人気が上昇しています。しかし、自己管理能力が備わった人でなければ金銭面で大きな問題を抱えやすいのも事実です。ビギナーが増加したこともあり、競馬を巡った金銭トラブルが多発しています」

☆競馬とハツネにのめり込み、見た目も性格も財産も一変した小金持ち老人。次回では、家族も絶句した哀れな末路を、詳細にレポートする☆

ライター 手越未明

▶︎後編に続く


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