「この人、お母さんだ」
その人は「ちゃんと食べなさいよ」と優しく諭すように言うとその場から立ち去った。
しばらく京子は茫然と立ち尽くした。
ハッと我に返って店内を見渡すと、不思議なことにあの人はどこにもいない。レジにも並んでいなかった。
「やっぱり、お母さんだ。心配してあの世から来てくれたんだ」
その人は京子の顔色の悪さを心配して声を掛けただけの「親切な人」だったのかもしれない。けれど京子は母の幽霊だと思うことにした。母は空から私を見ている。心配性の母が胸を痛めないよう、もう泣くのは止めよう、そう思うことで初めて前を向けそうな気がしたからだ。
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