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CAR 交通事故鑑定人は見た!

【交通事故鑑定人は見た!】一時不停止vs直進、どちらの主張が正しいのか?

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■クルマAの擦過痕は、クルマAのドライバーが主張する状況ではありえないものだった

まず、中島氏が注目したのは、交差点の形状だ。事故のあった交差点は、幾何学的にきちんとした十文字ではなく、東西方向の道路は交差点で折れ曲がっており、かつ、交差点の東側道路と西側道路は南北方向道路と接続する位置が南北にずれている。つまり、東西方向へ進むクルマは、ゆがんだクランク状の経路を通らなくてはならない。また周囲は住宅の高い側壁があり、ガイドミラーがついてはいたが、目視によっては見通せない。そのため、直進していたと主張するクルマAが、本当に直進走行をしていたのか、また一時停止線で止まったとするクルマBが、本当に停止線位置で停止していたのかを、単純に考察することは困難だと、中島氏は判断した。

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クルマAの擦過痕は、クルマBのフロント周りの部品と高さが一致する。クルマBが進行していると、このようにぴったりと擦過痕の高さが一致することはない

次に中島氏は、クルマAの擦過痕から、ある特徴を見つけた。クルマAの損傷は、左フロントドアの中央を越えて後部にまで至っていたが、ドアノブ付近よりも後ろ側には目立った凹みはなかった。クルマAのドライバーが主張するように、クルマBが進行していた場合、クルマAの左側面の後ろ半分(約1.7メートル)にわたって、凹みを生じさせずに、擦過痕のみ生成することはない。このような擦過痕を生じさせるには、衝突後にクルマAが右側へ回避行動をとるか、衝突した瞬間にクルマBが後退をする必要があるが、リバースギアに瞬時に入れて後退をしたというのは考えにくい。

もうひとつ、痕跡の伸び方が直線(と見なせる程度に曲がっていない)である点にも着目した。もしもクルマBが、クルマAを押し込み続けた場合、クルマAの左側は持ち上がり、揺れ戻しを受けるなどして、痕跡はより複雑な形状に広がっていたはず。またクルマBが衝突の瞬間に急停止していた場合、ノーズダイブを起こし、擦過痕は上下にジグザグするような形状になる。つまり、衝突前のクルマBの進行速度は極めて低速であったか、両車の接触前にクルマBは停止していたはずだ。

 

■クルマAはまっすぐ走ってこなかった?

衝突位置に関しても、クルマBに押された場合、衝突から0.5秒程度で西側の縁石に乗りあげ(おそらくそれ以前に電柱に衝突する)、西側家屋への衝突は避けられなかったはず。だがクルマAは、道路西側の物体との衝突はなく、「クルマBの衝突で右側に押されて、一時的に反対車線を走行し、家屋と衝突しそうだった」というような説明もない。このことは、クルマAのドライバーが指摘した衝突地点ではないことの傍証(ぼうしょう)となった。

またクルマAのドライバーは説明の中で、クルマBを認識していたにもかかわらず、適切な回避行動をしていたことを述べていない。事故地点の道路状況を考えると、さほど高速で走行できるはずはなく、クルマBとの衝突の危険を認識した際に、急ブレーキで停止できる(停止できなくとも、相当程度減速できる)はずであったが、そのような説明もないし、実際にタイヤのブレーキ痕もない。

 

直進していたというクルマAのドライバーは、十文字路に差し掛かる手前で、(無意識に)ハンドルを左へと切り、停止していたクルマBへと近づいていき衝突し、その後、右にハンドルを切って回避行動をして、その先で停止した

つまり、衝突位置はより東側で、少なくともクルマBの位置は、クルマA側の左側線の延長線よりも、東側であったことになる。まとめると、衝突地点及びクルマBの挙動について、クルマAのドライバーの説明を採用すると、現実の事故態様と整合せず、クルマAのドライバーによる主張は信用できないと言うしかないと、中島氏は鑑定したのだ。



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