「妻は、私が持ち物に何か仕掛けているのではないかと疑うので、ネットで電磁波測定器を買って、気のすむまで鞄やスーツを調べさせましたよ。もちろん、何もありませんでしたが。」
「主人が寝室に入って来ると、症状が強くなるんです。特に出張の後なんかは……。」
聰子が言いかけたところで、また敏史が口を挟む。
「留守中に寝室に何か仕掛けられたのではないかと言うので、部屋中をくまなく調べましたけど、何も出てこないんですよ。全く、どうしたら良いのか!」
敏史の介入で、聡子は俯いたまま何も言えなくなってしまっていた。 その時、敏史の携帯電話から通知音が鳴った。彼はそれを確認し、
「すみませんが仕事の電話に出てきます。おそらく10分ほどで戻りますので、ちょっと失礼します。」
我々にそう伝えると、いそいそと店を出て行った。
それを見届けてから、私はずっと確認したいと思っていたことを、聡子に尋ねた───。
「奥さん、2年前、本当は何か思い当たるきっかけがあったんじゃないんですか?」
聡子は、一瞬ハッとしたように私の顔を見て、すぐにまた俯いた。
しかし数秒後、決心したように話し始めた。
「私、あの人が恐ろしいんです。」
「恐ろしいって……なにか暴力とか、ふるわれているのでしょうか?」
私は驚いて聞いた。すると、聡子はむせかえるような勢いでこう言った。
「2年前から主人の帰りが急に遅くなって、出張も増えました。それに、ときどき何だか甘い香水のような匂いを付けて帰って来るようになって……。それって浮気してますよね?」
「その頃からなのですね? 体調が悪くなったのは。」
私が聞くと、聡子は泣きそうな顔で「はい」と小さく呟いた。
「ご主人に、浮気について確認されたことは?」
上司が確認すると、聡子は苦い顔をして口を開いた。次回へ続く。
探偵 こころたまき