麻衣子さんは不安そうな顔で続ける。
「また、位置情報を共有し合うことによって、傷つく必要のない場面で傷ついてしまう子どももいるので、私は手放しで位置情報を共有することが良いことだとは思いません。古い考えだと言われるかもしれませんが、自分のいる場所を言葉で何とか説明しようとする経験も、子どもたちには必要だと思うのです。そういった経験が子どもたちの表現力などを鍛えてくれるという考えも、もしかしたら古いのかしら……。
位置情報共有アプリについては、子どもたちの間に起きたトラブルを通して知ったから、ネガティブな印象しか抱けないのかとも考えてみました。トラブルの報告に来ない子たちは、位置情報共有アプリを楽しんで使っているし、相手と連絡がつかない状況に関しても『トイレにいるのかな。』みたいな適当な捉え方をしていて、相手の位置がわかるからこそ苦しいという思いはしたことがないそうです。保護者の方々の中にも、『位置情報共有アプリがあるので、心配が一つ減った。どこにいるかいつでもわかるということは安心につながりますから。』と仰る方は結構いらっしゃいます。」
麻衣子さんは、そう言いながら自分のスマホを出した。
「この機械一台で、世の中は本当に大きく変わりましたよね。便利になったとは思いますけど、果たしてそれが本当に良かったのかどうかは神のみぞ知る……ということなのでしょうか。私みたいな古い人間は、悪い側面ばかりが目についてしまって……正直、不安です。」
麻衣子さんの言葉は重く深く彼女の周りに沈み込み、彼女を包んだ。
スマートフォンが普及し情報化が進んだ今の時代だからこそ、何が安全で何が危険なのか、もう一度見極める必要があるのかもしれない。
ライター 八幡那由多
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