「私の実家は新幹線で3時間もかかる遠方にありますし、母は祖母の介護があって大変なので、心配かけまいと思って、自分の両親には妊娠報告しかしてなかったんです。でも、義母にいやなことを言われて、ただでさえ体がしんどくて落ち込みがちなのに、めちゃくちゃ落ちてしまって……母親に電話で泣きついたんです。そしたら母の怒ること怒ること」
母親は沙也子を心配し、とるものもとりあえず飛んできたという。到着するやいなやマンション中を掃除し、買い物に行って食料を買い込んできた。そして、作り置きできる多くの料理を作り、ジッパーバックに小分けして冷凍保存までしておいてくれたのだそうだ。
「レバー煮、食べやすくしてあるから少しでも食べなさいよ、と声をかけられて泣けてきました。愛情ってこういうやつだなと思って。気持ち悪いのはなくなりませんが、気持ちが温かくなって、久しぶりに安心できました」
母はダンナの帰りを待って、もし沙也子が邪魔なら連れて帰ると言ったのだという。夫は義母の来宅に驚くとともに、沙也子が何か言いつけたことを悟ったようだ。
「ダンナは母に向かってこう言ったんです。邪魔なんてことあるわけないですよ。でも全然良くならないし、良くなろうという気もなさそうなんで、ちょっと心配になってます、と」
ひどいことを言われた沙也子は、実家に避難することができたら、どれほど良いだろうと思った。しかし、里帰り出産を希望しなかったため、実家に戻ったら産める病院がない。忙しい両親に迷惑もかけられない。しかし、このとき怒りに震えたのは、沙也子だけではなかった。
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