3年ぶりに行動規制が撤廃され、多くの人が帰省や旅行をした。大手金融関連会社に勤務する中野彰洋さん(仮名・43歳)もその一人だ。
「両親と姉、6歳の姉の息子、そして妻(36歳)と一緒に関東近郊の温泉旅館に1泊2日で行ったのです。しかし、最後は険悪なまま解散になりました」
妻からすれば、夫の両親、夫の姉(シングルマザー)とその息子と温泉旅館に1泊など、苦痛でしかないだろう。出すぎず控えすぎず、嫁として気を使わなければならないからだ。
「いや、旅行は妻の望みだったんです。というのも、僕たちは2年前、コロナ禍に結婚して僕の親とはリモートでしか対面していなかったから。妻は両親がおらず、祖母の手で育てられており、家庭の味を知らない。私と結婚したのも“家族の仲がよく、親孝行なところが好き”と言っていましたから」
彰洋さんは埼玉県内に実家がある。銀行員だった父親と専業主婦の母に育てられ、実家から東京の名門私立大学に通い、社会人で一人暮らしを始めた。姉は2歳年上で、国立大学卒業後、公立小学校に教師として勤務し同僚と結婚し、離婚し実家で生活している。6歳の息子は聡明で、名門私立中学校を狙い早くも塾に通っている。中野家は典型的な「堅い」一家だ。
「だから、結婚に縁がなかったというか……30代半ばまでは、親も相手をよく見ていたんです。結婚が決まっても親がOKしないからダメになったこともありました」
しかし、そんな親も彰洋さんが40代になると「誰でもいいから孫の顔を見せてほしい」と言い出すように。
「仕事が強制的に遮断されたコロナ禍で、ネットで婚活して出会ったのが妻。料理はうまいし、いわゆる“床上手”というのかな。夜の相性が最高なんです。だから結婚しました」
妻は都内の短大を卒業後、34歳まで派遣社員をしていた。童顔で小柄でぽっちゃり体型、おおらかな性格でモノを深く考えない。まさに彰洋さんの理想だった。しかし、それは両親と姉の求める嫁像とは真逆だったのだ。
「妻が“せっかくだから親孝行しなよ”と言うので、1泊5万円(1人分)の人気旅館を2部屋予約。日程は、12月30日からの1泊2日で、昼に東京駅で待ち合わせて全員で新幹線移動。昼飯を食べて、旅館にチェックイン。翌日はレンタカーで観光し、家に帰るというプランです。全員分の旅費を出したので、40万円近く払いました。一世一代の親孝行です」
妻も彰洋さんの両親と姉親子の機嫌を取るべく頑張っていた。
「いつも以上に愛想よく振る舞い、甥っ子にも話しかけている。それなのに実家の家族の表情が曇っていく。旅館の夕食も明るい妻が盛り上げ役に徹し、父も僕も楽しかった。母と姉とは温泉に入って、裸の付き合いもしたんですよ」
それなのに母と姉は妻を完全拒否。帰りの新幹線で母は彰洋さんに「美幸さん(妻)との旅行はこれっきりにしてちょうだい。これは私たちのぶん」と15万円を手渡されてしまった。そのとき、妻は上機嫌で甥っ子と遊んでいたという。
「元旦は妻と過ごし、2日に実家に行ったら、姉がファミレスに誘うんです。そこで聞いたのは、僕が見えなかった妻の姿でした」
古い言葉だが、旅行で明らかになったのは、新婦の『お里の悪さ』だった。食事前に手を洗わない、箸で食べ物を突き刺す、指で人を指す...。
結婚前に両家のルールや「品格」に隔たりがあることに気づかないと、今回のケースのように早晩瓦解の危機に瀕する家族もある。人のふりみて、我がふり直せ。
☆次回では、彰洋さんが気づけなかった【妻の習慣】について詳細にレポートする。姉と母が温泉旅行で目撃したものとは☆
Text:沢木文