「ハマー(HUMMER)」をはじめとして、ピックアップトラックのBEVモデルが続々と発表されています。給電設備の整備や充電時間、航続距離など、BEVにはまだまだ課題が多いようにも思えますが、ピックアップトラックにもEV化の流れがどんどん進んでいる背景には、何があるのでしょうか。
■ポルシェターボに匹敵する加速を誇るハマーEV
2021年に発表されたハマーEVは、全長5.5m超、全幅2,2m超のボディに3モーター、1000hpの最高出力という驚きのスペック(エディション1)で登場しました。この大迫力ボディに加え、バッテリーだけで約1t、全体の車重はなんと4t以上という超ヘビー級ですが、「Watts to Freedom」と呼ばれるローンチコントロールの効果で0-96km/h加速はなんと約3秒、つまりポルシェターボに匹敵する圧巻の加速が味わうことができてしまう、まさに規格外のモデル。
しかし、こうした驚きのスペックはハマーEVだけのものではありません。アメリカで非常に人気の高いフルサイズピックアップトラックでは、ここ最近BEVモデルのラインアップが増えてきています。たとえば、話題性の高いところではテスラのサイバートラック。こちらはトリプルモーター+オールホイールドライブ仕様であれば、0-96km/h加速2.9秒というスペックを誇ります。
また、アメリカで最も売れているクルマ、「フォードFシリーズ」が、2022年のデトロイトモーターショーに出展したBEVモデル「F-150ライトニング」の0-96km/h加速は4.5秒とのことですし、このFシリーズのライバルであり、2022年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でお披露目された「シボレー シルバラード」のEVバージョンも、0-96km/h加速は5秒を切るスペックが与えられるようです。
■ダウンサイジングターボだけでは市場を維持することが難しい
日本では確実に持て余してしまうパワーとサイズのピックアップトラックですが、アメリカでは大変な人気があります。道路も土地も広いため、大きなクルマが問題なく走れるという道路事情もそうですが、自宅の改装や修理はDIYで行うという習慣や、ガレージセール、長距離移動のアウトドアレジャーなど、ピックアップトラックの活躍するシーンが非常に多いのです。
またフルサイズのピックアップトラックに乗る人は、大きなボートやキャンピングトレーラーを牽引する本格的なレジャーを楽しむ人が多く、日本ではあまり聞きませんが、カタログにある「トーイングキャパシティ」という数値が、重要な性能になってきます。フル乗車、荷物満載でなおかつ重いトレーラーを引くとなると、クルマにはそれ相応の大パワーが求められます。ちなみにハマーEVのトーイングキャパシティは7500ポンド(≒3400kg)、車重に近い荷物をトーイングできるスペックを持ちます。
こうした事情から、ピックアップトラックは、低速でも大きなトルクを発生する大排気量ガソリンエンジンを搭載する必要がありました。とはいえ、大排気量エンジンの燃費は酷く、その代わりとしてダウンサイジングターボエンジンなども検討されてきましたが、それも限界が見えてきました。というのも、年々厳しくなる環境基準の高さや原油高に伴う車両電動化の大きな波が押し寄せており、ダウンサイジングターボだけでは、市場を維持するのは非常に難しくなってきているのです。