「まあまあだよ。仕事がけっこう楽しくてさ。今課長になったんだよね。大きい予算を預けてもらえるようになって。っていうか綾子は大丈夫なの? 前回様子が変だったよ」
「私は平気。それよりも航平の話を聞きたいな」
「たいした話はないけど、そういえばおもしろいことがあってさ」
コロンビア戦での日本の劇的な勝利をよそに、2人は時間が尽きるまで話した。家のこと、仕事のこと、好きな映画のこと、苦手な漫画のこと。
そして8年ぶりにホテルで抱き合った。
「ねえ航平。 私たちいつまでこうやって会うのかな」
「ずっとじゃない? ワールドカップのときだけ会うの、気に入ってるよ」
「そっか」
綾子は服を整えると、トートバッグに手を伸ばした。
「今日はこれで帰るね」
航平は綾子の左手の異変に気付く。
「綾子、待って。指輪は? どうしたの?」
「なんでもないよ」
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