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全部BEVって無理筋じゃない?欧州のゼロエミッションは正義なのか

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■エネルギー高騰でBEVシフトどころではない

今回の合意は、2050年までにEU全体でGHG(温室効果ガス)排出を実質ゼロにする「気候中立」の達成を目指す「欧州グリーン・ディール」政策の一つで、各国の欧州理事会、欧州議会、欧州委員会による政治的な合意です。つまりBEV化によって起こる各自動車メーカーの懸念やユーザーの感覚、充電インフラを含めた各国の経済格差などはあまり考慮されていない決定だといえます。

たとえば欧州の多くの地域、特に都市部では、日本のように駐車場にクルマを止めるのではなく、路肩に止めるのが一般的です。駐車場に止めるのであれば、給電スタンドを装備することもできますが、既存の道路に給電スタンドを十分に確保するのは難しく、整備が不十分となると、BEVの普及はかなり難しくなることが考えられます。パリのように路肩に給電システムが備わっている例はありますが、すべてがBEVになれば、その数は足りません。

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EV化が進んでいるとはいえ、給電スタンドの整備はまだまだ不十分な状況だ

また、所得格差も大きいため、内燃機関モデルに比べて車両価格が割高になるBEVやFCVに販売が限定されるとなると、所得が低い地域では新車が欲しくても買えない、という状況が生じるでしょう。規制が始まってもBEVであることを求められない、中古のガソリン車やハイブリッド車も、たいへん貴重な存在になっていくことも予想されます。

自動車メーカーとしても、BEVシフトに巨額な投資が必要なことや、従来の生産ラインから雇用が奪われること、内燃機関モデルの販売が許される市場での競争力低下につながるなど、懸念材料は多いといえます。そのため、自動車メーカー側は、内燃機関を含むモデルの販売規制緩和を求めて、以前からロビー活動を行ってきましたが、官主導の決定には大きな影響を与えられず、今後の軌道修正にもあまり期待できません。

加えて、いま欧州では深刻なエネルギー危機に陥っており、クルマに電気を使っていられない状況。当然のことながら、BEVには電気が欠かせませんが、昨今の電力価格の高騰はかつてないほどのレベルで、ロシアからの天然ガス供給削減と合わせて、大きな打撃となっているのです。頼みの綱であるフランスの原子力発電所も、老朽化や水不足の影響で良い状態とはいえず、これから冬を迎える欧州では、そもそも生活していくのに必要な電力も十分賄えるかが懸念されているような状況で、近い将来の100%BEV化に向けた大きな問題となっているといえます。

 

■欧州におけるBEV普及のカギは「カーシェアリング」

エネルギー高騰によって、欧州は現在、高インフレに苦しんでおり、BEVの普及に取り組むことよりも、生活の安定への対策が、政府にとって喫緊の課題になっています。このことはBEV購入に対して適用される補助金などの政策にも影響を与えるようで、現にドイツは、2023年以降BEV購入のための補助金に対する予算を減額する方針のようです。

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ステランティス N.V.が運営するカーシェアリング事業「SHARE NOW」は、ヨーロッパの都市部を中心に展開。最近はBEVモデル「フィアット 500e」の使用を拡大している

ユーザー目線からすると、補助金なしであえて値段の高いEVを買う理由もなく、さらに「電気代が高い=EVに乗るメリットが減る」につながりますから、このまま電力の高値供給が続けばBEVシフトの進行が遅れるどころか、安定した供給が見込まれるガソリン車の方が良い、という感覚が強くなってしまいます。そこで、いま期待されているのが、「カーシェアリング」です。

近年ヨーロッパでは、カーシェアリングが急速に普及しつつあります。インフラ整備やエネルギー高騰の影響をあまり受けずに、必要な時だけ気軽に乗れるBEVのカーシェアリングは、ユーザーにもメリットが大きく、欧州のユーザー全体が、こうしたカーライフにシフトしていくことで、欧州におけるBEV化は今後加速してくると期待されます。

Text:Tachibana Kazunori,MMM-Production
Photo:TOYOTA,SHARE NOW,Adobe Stock,Getty Images
Edit:Ogiyama Takashi



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