「その日は社内のイベントがあって、普段は使わない倉庫に備品を取りに行ったんです。なかなか見つからなくて困っていたから、人が入ってきたことに気づかなくて」
倉庫に入ってきたのは、朋美と年配の男性のようだった。朋美の姿は確認できたが、男性の方ははっきりとはわからない。出ていこうか迷って様子を伺っていると、男性が朋美に覆いかぶさり、朋美の甘く高い声が倉庫に響き始める。
「もう、地獄のような時間でした。ただただ心の中で、早く終わってと祈り続けましたね。その後はもう気持ち悪くて仕事になりませんでした」
朋美と一緒に倉庫に来ていたのは、あずさが前に所属していた部署の部長だった。もちろん部長も既婚者だ。
あずさはその後も同じ倉庫に朋美が男性と入っていく現場を何度も目撃することになる。
「もう関わることもないと思ったのに、最悪ですよ」
せっかく違う部署になったのに、こんな思いをしなきゃいけないなんて。しかし、そんな日々に終わりを告げる知らせが入った。
朋美の妊娠が発覚したのだ。会社の天使の妊娠には、誰もが困惑する事情があった。
「どうやら旦那さんは海外に単身赴任中だったらしくて、しばらく日本に帰国してなかったらしいんです。でも、それ以上に驚いたことがあって」
朋美の妊娠を知らされた倉庫の同僚たちが、子どもの父親を予想し始めたのだ。
どうやら朋美は倉庫で密会を繰り返していたらしく、年配の社員たちは誰よりも彼女の裏の顔に詳しかった。寡黙だと思われていた先輩たちが、朋美の恋愛遍歴を面白おかしく語ってくれた。
大企業に勤める旦那の自慢話ばかりする朋美は、初めは周囲から疎まれていたらしい。
しかし、夫が海外出張にでかけ、現地の女性と浮気したことをきっかけに、様子が変わり始める。
「プライドが高い人だから、ものすごくショックだったみたいで。職場でもピリピリして、誰も近づけない感じだったそうです。仕事はできるから、周りも我慢していたみたいなんですけど」
そんな朋美の言動を問題視した当時の上司は、朋美を呼び出して時間をかけて話し合った。
その後、別人のように朋美の情緒は安定し、職場の空気は以前よりずっと明るく活気のあるものに変化する。朋美が改心したのには上司の説得が効いたのだろうという噂のほかに、もう一つ密かに噂が流れた。
朋美とその上司が男女の仲になったのでは、という噂だ。
「当時の上司は既婚者で、中学生の娘がいたそうです。それでも、同僚たちは見て見ぬふりをしたみたいですね。触らぬ神に祟りなしって感じでしょうか」
しかし、朋美の解放された性は、年上の上司だけでは満たされなかったようだ。