【後編】「IT系社長の妻」全てを手に入れたはずの女、その末路とは？

澤田は徐々に帰宅が遅くなり、会社に泊まることも増えてきた。やがて、土日もなかなか自宅に戻れなくなっていった。「監査が入るから」「上場のために挨拶する必要があるから」……、そんな状態でも、なんとか少しでも帰宅しようとする澤田に、舞香はやさしく言う。

「無理しないで、仕事に集中して。その代わり上場したら新婚旅行に行こうね。私は大丈夫、女友達と旅行にでもいっぱい行ってくるから」

澤田は少し強張った笑顔で「うん、楽しんできてね……」と答えた。

上場した記念すべきその日。
澤田は早々に家路についた。早く戻らなければ、早く舞香に会わなければ。

自宅で待っていた舞香は、今日のディナーのために華やかなワンピースに身を包んでいた。「綺麗だよ。じゃあ行こうか」

そのまま二人で高級レストランへ……向かうはずが、澤田はチェーン店のカフェへと入っていき、コーヒーをふたつ頼んだ。舞香は不思議そうな顔をして尋ねる。「レストランへ行くんじゃないの？」

澤田はため息をつく。そして寂しげに微笑みながら、そっと分厚い資料を取り出した。