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FOOD 洋食天国

ビブグルマン「七條」のミックスフライに心からごちそうさま

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料理芸人のクック井上。による、“飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”というデータがある中、何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんを巡り、その想い、歴史、人、町を知る連載コラムです。

料理芸人のクック井上。です!  “飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”
というデータがある中、町には何十年もの間、お客さんに愛され続けてきた洋食屋さんがあります。そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れる連載コラム【洋食天国】の今回は、創業は1976年(昭和51年)、千代田区内神田にある『七條(しちじょう)』にやって参りました。「ミシュランガイド東京2016」にビブグルマン選出されてから、現在まで5年連続で選出され続けている名店です。

さて、本日のお目当ては『七條』のランチの人気メニュー「ミックスフライ」。二代目・七條清孝シェフにお願いし、厨房で調理風景を拝見させていただきました。


■こだわりの「ミックスフライ」の調理工程

「ミックスフライ(1360円ランチ)」はエビフライ×2、アジフライ×1、クリームコロッケ×1という、夢のラインナップです。エビ(ブラックタイガー)は、丁寧に隠し包丁を入れて筋を伸ばし、揚げた時にまっすぐになるよう下拵えします。アジは小さなアジの開きではなく、大きな鯵の半身を使用することで肉厚なアジフライに仕上げます。

牡蠣が旬だという事で「ミックスフライ」に、カキフライ(単品300円)を追加注文。大きいサイズの牡蠣の中から更に大きいサイズを仕入れているそうで、期待に胸が膨らみます。

下味、小麦、濾した卵液、特製生パン粉を纏わせたらラード100%の揚げ油にIN。ラードの中で食材が持つ水分が弾ける心地いい音とキッチンに充満する甘い香りに感動。そして、ランチでの時に出たパン粉のカスを見て更に大感動。

一切焦げ付いておらず、これを見て“美味しそう!” と感じてしまう程に淀みのない黄金色。お店のきめ細やかな仕事が伝わります。そして、丁寧に丁寧に揚げられた「ミックスフライ(+カキフライ)」がテーブルに運ばれてきました。それぞれの揚げ物が支えあったような盛り付けで、もはや美しい建造物のよう。

「ミックスフライ(ライス+スープ付き)」(ランチ:1360円)、「カキフライ(単品)」(ランチ:300円、ディナー:350円)

あらゆる角度から愛でたくなる一皿。崩すのがもったいないですが、冷める方がもっともったいないので、早速いただいてみましょう。まずはフライの王様・エビフライを特製タルタルソースで。

ツンツン立ったパン粉を歯で突き破った先に、勢いよくその歯を押し返す活きのいいエビのお出まし。エビの弾力に負けず歯を入れると、身がプチっとはじけ旨味が染み出し、パン粉の香ばしさ&ラードとエビの薫りが鼻腔に充満します。

特製タルタルソースも秀逸。しつこくなりがちなタルタルソースですが、とても爽やかに仕上がっており、揚げ物をより軽やかにします。ビネガー&イエローマスタードの酸味が利いた自家製マヨネーズが、タルタルソースの具材玉ネギ・ケッパー・きゅうりのピクルス・茹で卵の素材の味を引き立てています。

次に、長年使い続けているというユニオンソースをタルタルソースと混ぜていただくとしましょう。スパイシーでやや甘みのあるソースによって、たちまちご飯泥棒に大変身。味変に最適です。さぁ、この流れでアジフライへとなだれ込むとしましょう。

衣の下から現れるジューシーなアジは新鮮そのもの。しっとりとしてきめ細やかな繊維は舌触りがよく、肉厚な身と衣とのバランスは今まで感じたことのない満足感です。噛む度にソースともタルタルソースとも違うエキゾチックな香りが鼻を抜けるのを感じます。実は、揚げたての時点でほんの微量のカレー粉を振っていたんです。

最後まで飽きずに「ミックスフライ」を食べられるようにという、気の利いたひと技に敬礼。

お次に頂いたクリームコロッケも絶品。トロっとなめらかなベシャメルソースにマッシュルームの薫りやカニのほぐし身の風味が漂う、上品なクリームコロッケ。何もつけずに楽しみたい一品です。

そして、カキフライは欲張って追加して大正解。通常の2個分はあろうかというサイズの牡蠣は、お箸で持ち続ける手がプルプル震えるほどのヘビー級。噛めば海苔のような磯の香りがはじけ、同時にクリーミーな牡蠣の汁が口いっぱいどころか、顔全体に広がります。

主役ばかりが揃った「ミックスフライ」ですが、脇を固めるいぶし銀の名バイプレイヤーも忘れてはなりません。絹糸のように細い千切りキャベツ。香味野菜が贅沢に香るスープ。自家製マヨネーズによって素材の味が生かされたポテトサラダ。そのどれもが主役を引き立てつつ、箸休めと呼ぶにはもったいない存在感があり、この一皿に無くてはならない役者として存在しています。

また、全てのお料理をどっしりと支えるお米も艶々で、本当に何から何まで抜かりがありません。食べ終えるのが惜しいほど、その一品一品に込められた真っ当な仕事に感動。お店のお料理に対する愛情が存分に伝わりました。ゆっくりしっとりと手を合わせたくなる大満足の一皿を食べ終え、ここからは二代目・七條清孝シェフにお話を伺います。

 

■師匠・北島シェフと出会い、料理への考え方が変わった

── お店の歴史について教えてください。
二代目・七條清孝シェフ
 親父が知り合いの不動産の方から「小学館ビルの地下の倉庫で使っているスペースが空くから」とご紹介いただき、1976年(昭和51年)にお店を始めました。元々、親父は叔父と一緒にお店経営などしていたのですが、商人の娘である母に「あんた独立しなさいよ」と発破かけられる形で始めました(笑)ですので、親父はシェフではなく経営者でした。2013年の小学館ビルの建て替え・取り壊しを機に現在の内神田に移転しました。

── 2代目としてお店に入ったのは、小さい頃から見てきた洋食への憧れですか?
二代目・七條清孝シェフ
 憧れというか、お店を見ていると料理人さんを雇い続けるという事で苦労するというのを感じ、「これは継がなきゃ!」と思いました。22歳の時に外のお店で修行し始めたのですが、1年弱した時に『七條』の料理人さんが辞めちゃって、人手が足らなくなり、すぐ戻ってお店を手伝いました。ただ、全然修行できていませんから、タイミングを見て他のお店で修行を再開しました。そうしたらまた料理人さんが辞めちゃって戻ることに……。結局、外で勉強したのってトータルで1年ちょっとくらいしかできなかったんです。

── ではその後は『七條』で働きながら、同時に修行を積んだというイメージですか?
二代目・七條清孝シェフ
 そういうと格好いいんですけど、実際は違います。ほとんど経験がないまま『七條』に戻ったわけですが、戻ってすぐにチーフの方が辞めちゃって、厨房は僕一人になってしまいました。もちろんチーフの仕事は見てはいましたけど、見てりゃできるってわけじゃないので、当然大したことできない。だから、一人になった直後の何ヶ月間かは酷かったですよね。やるしかなかったのでなんとかかんとかやりましたが……。25歳の頃でした。

── 修行も引継ぎも十分じゃない状態で、料理人が一人になっちゃうのは大変ですね。どのように乗り越えられたんですか?
二代目・七條清孝シェフ
 勉強もしてないですし、基礎がないですから、色んなことにチャレンジしても頭打ちになっちゃうんですよね。これじゃだめだと思って、色々食べ歩きました。そして、四谷『北島亭』で食事した後に、今のお店の状況を全てお話しし、「ここで働かせてください!」 と北島シェフ直談判したんです。基本的には研修生はとらない、というスタンスだったらしいのですが、特別にOKをいただきました。

── 北島シェフは、なぜOKしてくださったんですかね?
二代目・七條清孝シェフ
 やっぱり悲壮感があったんじゃないですかね(笑)。その時の私は、相当必至だったんだと思います。3年ほど、うちのお店が休みの毎週土曜日に修行させていただきまして、料理に対する考え方が変わりました。『北島亭』の厨房には、バターの銀紙の包み紙や、ビニール袋を洗ったものが沢山ぶら下がってたんです。何だろうと思って聞いてみると、バターの銀紙の包み紙はタルトを焼く際に再利用したり、ビニールもきれいに洗って干して何かを入れたり。お湯も捨てたら叱られました。「洗い物に使える! ケチでやってるんじゃないよ。これで抑えた分を、お客さんの皿に乗っけてあげなきゃ!」と。そういう努力を重ねて、『北島亭』は相当原価のかかった凄い料理を平気でどんどん出してました。

── 凄いお話に心震えました。その北島イズムが『七條』あるわけですね。
二代目・七條清孝シェフ
 はい、『北島亭』に行かなかったら、今の『七條』は無いです。当時、『北島亭』で学んだことを生かして、お店の味が変わっていくのを見て、親父も喜んでました。北島シェフとは今もお付き合いがあります。

── 素敵なご縁ですね。会うと北島シェフはどんな話をされますか?
二代目・七條清孝シェフ
 北島シェフはいつも「いい料理が作りたいなぁー!」「料理は愛情だよ!」って、そればっかりですね。目をかけて手をかけて、お料理はやっぱり手間暇、愛情ですね。

あゝ、なんて素敵なお話でしょう。お料理を食べて心が洗われ、お話を伺い更に洗われた今回の取材ロケ。お店を継いだ当時、ご自身の経験不足で苦労された二代目・七條清孝シェフ。しかし、七條シェフの本気の想いは『北島亭』の北島シェフの心を動かしました。今の『七條』の味は七條シェフの本気の想い+北島シェフの料理に対する本気の愛から作られたものなんですね。

心からご馳走様でした。

現在、二代目・七條清孝シェフ、奥様、ご長男、ご長女という、家族経営でお店を切り盛りされている『七條』。これからもお料理への本気の想いと愛を体現しつづける『七條』を楽しみにしています。

七條
東京都千代田区内神田1-15-7 AUSPICE内神田 1F
03-5577-6184
営業時間
平日11:30〜14:30(L.O.14:00)、18:00〜22:00(L.O.20:30)
土曜日11:30〜14:30(L.O.14:00)
定休日 第2・4土曜、日曜、祝日
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

Text:Cook Inoue
Photo:Takuji Onda
Edit:Takashi Ogiyama

クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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