料理芸人のクック井上。です! “飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんがあります。そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れるコラム【洋食天国】。今回は、新宿『COFFEE 西武』にやって参りました。
席数250席、都内随一の大箱の純喫茶『COFFEE 西武』は、新宿で多くの飲食店やアミューズメント施設を経営する「新宿メトログループ」が、前回の東京オリンピックが開催1964年(昭和39年)に創業。今年で57年目の歴史を誇ります。
さて、洋食屋を巡る当コラムがなぜ純喫茶に訪れたのか。それは『COFFEE 西武』の洋食メニューへのこだわりとても強く、クオリティが高いからです。特にご紹介したいのが「新宿特製オムライス」。厨房にお邪魔させていただき、“特製”の秘密を探らせていただきました。
■『COFFEE 西武』の「新宿特製オムライス」の作り方
フライパンでややゴロっとしたベーコン・薄切り玉ねぎ・マッシュルームを炒め、ケチャップとよく和えます。
そこへご飯を入れ、全体にケチャップをいきわたらせたら、薄切りピーマンと風味付けのバターを加えます。そして、ケチャップライスを皿に移し、とろけるチーズをのせます。
フライパンに油をひき、卵6個分の卵液を流し込み、揺すりながら手早くふわとろに仕上げます。ラグビーボール状に成型し、とろけるチーズの上にのせる。間もなく完成。
さて、その時に備えて席に戻り、間もなく到着「新宿特製オムライス」。威風堂々、さすがの卵6個使用のド迫力。切れ目を入れて卵を開いてみると、中はトロトロ。スプーンを入れて持ち上げると、忍ばせたチーズが伸びてシズる感たっぷり。
口に入れると、懐かしいデミグラスソースと滑らかな卵がふわりと一気に広がり、後からチーズの薫りと塩味、懐かしいケチャップライスが混ざり合います。ケチャップライスの具材は、それぞれみじん切りではないので、存在感があり食感が良いのです。
卵は、クリーミーながらさっぱりしており、しつこさはありません。何か秘訣があるのかと伺ったら、卵液には生クリームではなくコーヒー用ミルクを少量混ぜているのだそうです。デミグラスソースにも大人を納得させる深みと、老若男女に愛される親しみやすさが同居していて、ハイクオリティ。卵・ライス・ソースそれぞれのパーツのクオリティが高く、こだわりと工夫が感じられ、とてもバランスの取れたオムライスです。
本当にここは喫茶店なのだろうか? 喫茶店の食事と言えば軽食のイメージが強いが、『COFFEE 西武』のお料理は全く軽くなく、老舗洋食店のような重厚さを感じざるを得ません。
創業当時から変わらぬ味を守り続けている「西武カレー」も見逃せない一品です。本格的なスパイシーさ、香味野菜の旨味と甘味、ゴロっとした豚肉……、昭和の安心感溢れる伝統のカレー「西武カレー」は、「新宿特製オムライス」と双璧をなす人気メニューだそう。
有りそうでなかなか無い本格的な味、何度食べても飽きない味、誰が食べても納得の味。積み重ねた歴史が作り上げた伝統のカレーと言えるでしょう。“エモい”ではない本物のレトロを守るためにあらゆる策を打つ……。
ここからは、新宿メトログループ 飲食営業部の青木智宏部長にお話を伺います。
── 「新宿メトログループ」は、新宿で多くのお店を運営されていると伺いました。成り立ちを教えてください。
青木智宏部長 終戦後、焼野原だった新宿に新しい価値を作ることを使命とした創業者が「これからは日本人も靴を履く時代がくる!」と考え、新宿で靴屋を営んだ事が始まりです。更に、「人が集まる街には娯楽の場があっても良い」と言って、酒場やスマートボール店を開きました。その後、バッティングセンターや複数の飲食店を開業することになります。
── 『COFFEE 西武』は、席数が250席とかなり大箱ですね。どのようなお客様が多いでしょうか?今と昔の違いなども教えて頂けたら幸いです。
青木智宏部長 昔は地元の方や、仕事で訪れた方々の談話室という利用が多かったのですが、近年はレトロな空間を楽しみたいという若者が増えました。またSNSの普及により、見た目にも華やかなパフェメニューや、昔ながらのオムライス、カレーライスなどが注目されるようになりました。
── 席数が250席とかなり大箱で、生クリームなどは既製品に頼ってもおかしくないところ、あらゆる“自家製”が多いと伺いました。こだわりの“自家製”について教えて下さい。また自家製にこだわる理由もお知らせいただけたら幸いです。
青木智宏部長 既製品に頼ればオペレーションは楽なのですが、同じ味を守り続ける為にはやはり自家製に拘る必要があると考えております。既製品の欠品や販売中止があった際に全く同じものを見つけるのは困難です。
── オムライスとカレーを頂きました。作る際のこだわりを教えてください。
青木智宏部長 オムライスのこだわりはまず卵ですね。一つの商品を作るのに6個もの卵を使用しています。それをいかに「ふわとろ」に仕上げるかが大切です。カレーに関しては、仕込みの段階が一番重要です。風味を損なわない事と、野菜の旨味がしっかり伝わる事に重点を置いています。
── お料理が喫茶店レベルではなく洋食屋さんレベルだと感じました。シェフの方々の育成などで工夫や方針がありましたらお聞かせください。
青木智宏部長 慣れるまでは先輩スタッフが全力でフォローしてます。失敗を恐れずに、思い切ってチャレンジさせています。合格点に達するまでは何度も失敗を繰り返して、皆の賄いになっている事が多いです(笑)。
── 居心地・座り心地の良いラグジュアリーなソファと合わせて、天井のステンドグラスがとても素敵な雰囲気です。有名な作家さん、職人さんの仕事でしょうか?
青木智宏部長 当時の業者さんの記録が残っておらず、残念ながらどなたが作成したのかは不明です。2019年に2号店を西新宿にオープンしましたが、そちらは「松本ステンドグラス」様に協力をお願いして、当時の物を再現していただきました。
── 内装費をかけて、2号店も本店と同じような雰囲気にされた理由があれば教えてください。
青木智宏部長 本店が入っているビルの老朽化により、いつ改修工事計画があがってもおかしくありません。その際に珈琲西武の歴史が途絶える事に懸念を抱いたのが大きな理由です。
── 現在、喫茶店という存在にとっては厳しい時代のようにも感じられる中、「COFFEE 西武」が支持され続ける理由は何だと思いますか? そして、今後の展望などありましたらお聞かせください。
青木智宏部長 昨今、急速に“新しいもの”が誕生しています。だからこそレトロな空間にも価値を見出していただけるのではないかと考えております。「古いが新しい!」というコンセプトを大事にしていきたいです。
今まで守ってきたもの、変わらぬ味、懐かしい風景……それらを守る為にあらゆる策を打っている事がわかりました。「古いが新しい!」というコンセプトを大事にしていきたいと語った青木智宏部長。しかし、それは流行りの“エモい”ではありません。そこにあるのは、長い歴史の中で守り続けてきた本物のレトロ、そして温かさなのだと感じました。
皆さんの周りにも変わらぬ味、レトロな風景、こだわりの洋食メニュー、あるんじゃないでしょうか? 日本人みんなの憧れの「洋食」という名の日本が誇るべき食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。まだまだ巡って、その想いや歴史、人や町に触れたいと思います。
Text:Cook Inoue
Photo:Takuji Onda
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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COFFEE 西武
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03-3354-1441