2020-2021年日本カーオブザイヤー大賞を受賞した、スバル「レヴォーグ」。2020年10月の発表以来、販売も好調で、初年度の計画台数2200台/月に対し、2021年1月は4692台、2月は3677台、3月は4892台と、計画台数を大きく上回る売れ行きとなっている。ステーションワゴンが売れない昨今の日本市場において、これほど売れているのは驚きだ。
ステーションワゴンは、欧州市場では需要が高く、海外メーカーではラインナップも豊富だが、日本では、1990年代のブーム以降、めっきり人気が落ち込んでいる。国産メーカーからは、このレヴォーグのほかには、トヨタのカローラツーリング、カローラフィールダー、マツダの6ワゴンなど数車種あるのみ、という、まさに絶滅危惧種である。
レヴォーグは、なぜ、ここまで人気なのだろうか。
■完成度が高い、コスパに優れるステーションワゴン
レヴォーグの完成度は、国産車の中でも群を抜いている。たとえば、ボディサイズ。4755×1780×1500(全長×全幅×全幅)mm、ホイールベース2670mmと、大きすぎず、小さすぎず、運転しやすいサイズ感でありながら、広い前席周りと荷室スペースを備え、使い勝手もよい。最大積載量は3列シートのミニバンにはさすがに敵わないが、その分全高が低いため、走りの面では絶対的に有利だ。
車重1550kgに対し、177ps/300Nmを誇る1.8Lボクサー直噴ターボは、レガシイ時代のEJ20のような速さはないものの、シームレスで滑らかなエンジンフィーリングで、必要十分な動力性能と、まずまずの燃費を誇る。しかもロードノイズは、初代レヴォーグに対して、相当小さくおさめられている。4WDは、日常走行からスポーツ走行まで、高いレベルの安心感が得られる。
それでいて、車両価格は310万円からとなっており、アイサイトXが付くグレードも、347万円から手に入る。装備内容を考えると、「コスパが良い」としか言い様がない。近しい装備を備えた欧州メーカーのワゴンだと、軽く500万円は超えてくる内容であり、この価格で、アイサイトXクラスの先進安全装備を備えたクルマは、現時点はほぼない。
このように、レヴォーグは、比較的コンパクトなサイズで走行性能も高く、また先進支援技術も豊富に備えた、完成度の高いステーションワゴンだ。いかにも「スバル」なデザインさえ気に入れば、いま最も推しの国産車だ。
■名車の後を受け継いだレヴォーグ
ステーションワゴンは、同じくスバルの名車、「レガシィツーリングワゴン」なくしては語れない。90年代のステーションワゴンブームは、初代レガシィツーリングワゴンの登場によって火が付けられた。
日本国内で取り回ししやすい適切なボディサイズで登場した初代レガシィであったが、日本のステーションワゴンブームが下火となったことで、4代目以降は海外市場、特に北米の顧客からの要望を取り入れ、大型化していく。そして2014年に、日本国内ではツーリングワゴンが廃止となるが、まさにその年にデビューしたのがレヴォーグだ。スバルは、往年の日本のスバルファンの期待に応えるため、レヴォーグを昔のレガシィツーリングワゴンに近いサイズで世に送り出したのだ。
■日本専売モデルだからこその使い勝手
自動車メーカーが新型車を開発する場合、そのクルマが最も売れるマーケットに合わせ、クルマを作りこむ。具体的には、パッケージング検討に用いる人体モデルの腕の長さ、足の長さ、座高などの体格データを、その国(地方)に合わせる、といった感じだ。
例えば、北米市場メインのクルマだと「AM50」という基準に合わせる。成人アメリカ人(A)の男性(M)の、身長、体重などの分布の中央値(50%)がもつ体型に合わせて設計しています、ということだ。
もちろん、これはシート設計に限った話ではなく、例えば日本で売るクルマの場合、アクセルレスポンスやブレーキを、信号機の多い日本の道路環境に合わせていたり、サスペンション特性も、メンテナンスが行き届いた、日本のきれいな舗装路に合わせた設定にされていたりもする。
軽自動車やミニバンが、どこか馴染むのは、まさに日本向けに作りこまれているからなのだ。レヴォーグはクルマとしての出来が素晴らしいだけではなく、何より、日本のエンジニアによって、日本で運転する日本人にむけてつくられている、というところにも魅力があり、レヴォーグは、日本専売だからこそ、生き残ってきたのだ。
■まとめ
ひと昔前だと、「海外で売れています!」というのも、売り文句になっていた時代があったが、輸入車の垣根も下がった現在では、むしろ国内専売で作られた車にこそ、魅力がある。
クルマにも地産地消の思考が必要なのかも知れない。
Text:Kenichi Yoshikawa
Photo:SUBARU
Edit:Takashi Ogiyama