絶滅危惧種「町の洋食」を救え!
料理芸人のクック井上。です!
‟飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんがあります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町に触れる連載コラム【洋食天国】
vol.6は、人形町『小春軒』にやって参りました。

『芳味亭』『キラク』と共に、‟人形町の洋食御三家”に数えられるお店です。
創業は明治45年(西暦1912年)、明治最後の年。
世界を見ると「タイタニック号沈没」があった年だと言いますから、いやがおうでも、100年以上守ってきた、暖簾の重みを感じざるを得ません。
早速、その暖簾をくぐると致しましょう。

日差しが、暖簾越しに木漏れ日のように引き戸に降り注いで、エモさがハンパない。
初めてここへ来たなら、オーダーするのはこの2択でしょうか。
・揚げ物など、複数のお料理をひと皿にした「特製盛り合わせ」(1500円)
・オリジナリティ溢れる「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付き)」(1300円)
どちらのメニューにも“特製”の文字が付き、双璧をなす人気メニューですが、今回は『小春軒』の代名詞と言っても過言では無い「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付き)」をオーダー。

作って下さるのは、四代目店主・小島祐二さん。昨年、三代目店主・小島幹男さんが勇退し、あとを継ぎました。
それでは『小春軒』のスペシャリテ、「小春軒特製カツ丼」の特製ぶりを探りましょう。

一枚の豚ロース肉を、一口サイズにカットしてパン粉を纏わせていきます。

そして、玉ねぎ・ニンジン・ピーマンを、割り下でサッと煮た小鍋に、サクッと揚がった豚カツを投入し、甘辛い割り下を、豚カツに吸わせていきます。

一般的なカツ丼のように卵でとじずに、割り下で煮込んだら、ご飯の上に並べていきます。

さて、どんなカツ丼が出て来るでしょうか? 席に戻って待つとしましょう。
ワクワク&ドキドキ、いい香りと共にやって参りました♪
押しも押されもせぬ『小春軒』の看板メニュー……
「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付き)」(1300円)

ご飯の上に割り下を吸った豚カツ、そこに目玉焼きがトッピングされ、その上から割り下で甘辛煮にされた野菜がちりばめられております。

立ち昇る香りもたまりません。
まずは、豚カツ単体で食すとしましょう。

噛むと、衣に纏った甘辛い割り下ジュワッと染みみ出し、舌全体を抱え込みます。
そして、揚げ油のラードの香りがフワッと鼻をくすぐります。
「小春軒特製カツ丼」の特徴はやはり、一枚の豚カツではなく、一口サイズの豚カツを使用している事。
通常のカツ丼の豚カツよりも衣の表面積が広くなり、それによって、割り下とラードを多く纏う事ができ、一般的なカツ丼では味わう事の出来ない満足感とコクを、衣に閉じ込めることができるのです。
卵でとじていないことで、それらをダイレクトに感じられることも、長年愛されている秘訣でしょう。
更に、この衣が纏っている旨味たっぷりの割り下には、ある秘密が。
単なる“和”ではなく、向こう側にほんのり“洋”を感じるなと思ったらなんと、少量のデミグラスソースを隠し味に入れているんだそう。
初めて食べる人にとっては新しいのに、なぜか懐かしさも感じてしまうという、魔法のような、和洋折衷&唯一無二の味です。
ここからは、デミグラスソース香る割り下の旨味を纏った角切り野菜と豚カツを、一緒に口に運びましょう。

玉ねぎ・ニンジン・ジャガイモの甘みにピーマンの苦みが加わり、カツ丼でありながら、向こう側にほんのりシチューが存在している気さえします。
感嘆が止まりませんが、いよいよ、真ん中に鎮座した半熟の目玉焼きの黄身を纏わせるとしよう……。

間違いない、優勝です!
濃厚さとまろやかさがプラスされて、とじたカツ丼では味わえない満足感とワクワク感でいっぱい。
なぜ、卵でとじずに目玉焼きを乗せたか?
その昔、まだ卵が貴重だった頃、‟卵ひとつ入っている!”とわかるよう、豪華に見せるように、この目玉焼き後乗せスタイルに辿り着いたのだそう(訪れたお客さんも、目を丸くした事でしょう)。

そして、時折挟むしじみ汁が「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付き)とベストマッチ。
ワカメ、豆腐、油揚げ……、みそ汁の具にも色々あるが、おそらく他の具材では、ここまでのフィット感は無いでしょう。
そう、小春軒のカツ丼は“しじみ汁付き”という最後のピースがあって完成するのだ。
しじみ汁よ、あなたは名バイプレイヤーだ……。
本当に、全ての具材が計算し尽されており、全ての仕掛けがオリジナリティの源泉なのだ。
気付けば、本能で食べ進めていき最後のひと口。

一抹の寂しさを覚えつつ、いただきます。

食べ始めてから5分で完食、感想をひと言…、‟参りました”!
ここにしかない、どこにもない、なのに誰もがホッとする「小春軒特製カツ丼(しじみ汁付き)」。
奇を衒ったのではなく、全てが馴染むように丁寧に作られた、大発明料理です。
明治45年開業『小春軒』の歴史を伺った!
ここからは、昨年あとを継いだ四代目店主・小島祐二さんに、お話をお伺いしたいと思います。

── お店の成り立ちについて教えてください。
小島祐二さん 私のひい爺さんにあたる初代店主・小島種三郎が築地の『精養軒』で修行し、山縣有朋の毒見 兼 専属料理人に抜擢されました。その後、明治45年に妻・はると結婚した事を機に独立、妻の名前から『小春軒』と名付け、西洋料理屋を開業しました。
── 三代・九代首相の山縣有朋のお抱え料理人とは凄いです。そして店名の由来が素敵です。看板メニューの「小春軒特製カツ丼」、とても美味しかったです。
小島祐二さん カツ丼は初代が戦前に生み出したメニューですが、実は長い間やめていたメニューなんですよ。戦争で疎開したのをきっかけにお店を一旦休みまして、戦後にお店を再開した時から1995年くらいまではやめていました。でも、人形町『玉ひで』(親子丼元祖の店)の七代目や、他の当時の味を知る常連の旦那衆が、ずっと懐かしんでくれていました。それで、私が修業先のYMCAレストランから戻ってきたタイミングで、親父(三代目店主・小島幹男さん)が当時食べた舌の記憶だけを頼りに再現し復活させました。
── お父様は、まさにこの味の継承者だったんですね!
小島祐二さん はい。昔は、カツ丼はとてもご馳走だったので、当時、実際にカツ丼を食べさせてもらった孫は、跡継ぎ(長男)の親父だけだった。親父は、初代にとても可愛がられていたので、復活させることで、恩返ししたいという想いもあったようです。親父は、昨年まで厨房に立っていましたが、がんを患いまして、歳も86歳で良い頃合いだという事で引退しました。
そんなタイミングで、女将さん(三代目店主・小島幹男さんの奥様)が登場

「写真撮るならお化粧してきたのにー」と女将さん。いやいや、肌艶がとてもいい!(81歳とは信じられない!)
三代目店主・小島幹男さんも登場!

「ほら、写真撮るんだから」と、仲睦まじい三代目と女将さん。「そろそろ取材終わった頃かなと思って降りてきたんだけど。私はコーヒーを飲みに喫茶店に。じゃ」とマイペースな三代目。
── ご主人のお身体の調子はいかがですか?
女将さん 胃がんで、胃をほぼ全部取っちゃったのよ。手術したら食べる量が減るのかなと思ったら、ところがね、ビールをやめた分食べるようになっちゃって。胃を取って体重増えた人も珍しいわよ(笑)。今では元気になって、長唄と小唄もやってるんですよ。

というわけで、三代目もお元気で何より!
今回はいつにも増して和気藹々とした取材ロケになりました。
人形町『小春軒』の雰囲気は、まさにお店のキャッチフレーズそのもの‟気取らず美味しく”。

このキャッチフレーズは、常連さんが考えたんだとか。愛されてるなぁ……。
常連さんは、味だけじゃなく、小島家のファンなんだと思います。
ご家族の仲の良さ、チームワークの良さ、人柄の良さ、それがお客さんに伝わっているんだと思います。

将来の五代目店主(左端)にも入っていただき、記念撮影。
最後に、100年以上の歴史を家族で繋いできたことを感じさせるお写真を見せて頂きました。

二代目の結婚式。

(左から)二代目女将さん、従業員さん、三代目、三代目女将さん、二代目。
『小春軒』の皆さま、お忙しい中有難う御座いました。
嗚呼、食べたばかりなのに、もう懐かしいあの絶品カツ丼!
皆さんにも、親子三代、四代で通いたくなるような“思い出の洋食屋”があるのではないでしょうか?
日本人みんなの憧れの「洋食」という名の和食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。
巡って、その想いや歴史、人や町に触れたいと思います。
小春軒
東京都中央区日本橋人形町1-7-9
☎03-3661-8830
営業時間
月~金11:00~13:45、17:00~20:00
定休日 日曜日、祝日、土曜日不定
営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。






Text:Cook Inoue
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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