絶滅危惧種「町の洋食」を救え!
料理芸人のクック井上。です!
‟飲食店は開店してから、2年以内に半数が閉店に追い込まれる”というデータがある中、町には何十年もの間、お客に愛され続けてきた洋食屋さんが沢山あります。
そんな老舗の洋食屋を巡り、その想い、歴史、人、町を知る連載コラム【洋食天国】。vol.4は、銀座『みかわや』にやって参りました。

その歴史は古く、明治20年(西暦1887年)9月、創業者の保坂芳次郎が、現在の銀座通りにある和光のとなりに『三河屋食料品店』を開業したのが始まり。
現在の『みかわや』は、4代目店主・渡仲晋平(となか しんぺい)さんの祖父、初代店主・渡仲豊一郎さんが終戦の混乱の中で屋号を受け継ぎ、現在地に『フランス料理 みかわや』として再興したものだそうです。

さて、『みかわや』の歴史や想いは後ほどご紹介するとして、早速お店へ入りましょう。

ラグジュアリーな赤絨毯が敷かれたらせん階段という、さすが銀座の一等地の、更にど真ん中の洋食屋。

そして店内の様子がコチラ。

明治時代の、鹿鳴館を彷彿とさせる落ち着きと高級感です。

本日は、『みかわや』の想いが詰まった「グラタン」をオーダーしました。調理風景を拝見させて頂けるとの事で、特別に厨房に入れて頂きました。

鍋にやおら入れたのは何匹もの大ぶりな海老。

海老って言っても、そんじょそこらの海老じゃなく芝海老です!
レモンとバターを加えたら……。

白ワインで風味づけし、サッと表面だけ火を加えたら一旦取り出します。

煮汁をグッと煮詰め、加えるのはお店特製のベシャメルソース。

生クリームで伸ばしながら、滑らかにしていきます。
そこに先ほど炒めた芝海老を戻して、ベシャメルソースで優しく火を通し、そして芝海老の旨味をベシャメルソースにも移していきます。

イタリアのハードタイプチーズ、ペコリーノ・ロマーノをかけてオーブンへ……。
さて、あとは待つだけという事なので、僕は席へ戻るとしましょう。

4代目店主、渡仲晋平さんが持って来て下さいました。

着皿した「グラタン」そして、「サラダ」も美しい!

ズーーーム!

美しくセクシーな焼き目と共に、鼻をくすぐるいい香り。

しっかりその見た目を愛でたら……。

グイッとスプーンを入れます。持ち上げると、さっそく芝海老が釣れました。
いただきます!

プリップリな芝海老が舌の上で踊り出します。そして噛むと、威勢よく、しっかりと押し返してくる弾力が残っています。
優しく包むベシャメルソースの向こう側には、レモンと白ワインのほのかな酸味が感じられ、濃厚なのにもかかわらず、爽やかさすらある!
最上級の「グラタン」、ここにありです。
と、端から食べ進めていくと、何やらちらりと見える粒が……。

ご飯だ! えっ、これ「ドリア」ではなく、「グラタン」なはず。
『横浜ニューグランドホテル』の初代料理長であるS.ワイル氏から、フランス料理の“技と心”を直伝された数名の中の一人であった、『みかわや』の初代店主・渡仲豊一郎さんが、『横浜ニューグランドホテル』の「ドリア」をもとに開発したのが、この「グラタン」だったとのこと。
『横浜ニューグランドホテル』時代の面影や想いを残すために、「グラタン」の中央に、ちょこんと少しだけ、バターライスを忍ばせているんですって。
なんとお洒落な……。
『みかわや』にはたくさんのメニューがありますが、「グラタン」は、師匠であるS.ワイル氏への、アンサー料理のようなものなのかもしれません。
さて、そんな思いを感じつつ、何度スプーンですくっても、必ず入って来るのが、プリップリな芝海老。

もはや、目を閉じて唸る事しかできません。

途中、口に運ぶサラダも絶品。
ドレッシングには、オイルに出汁とお醤油を加えているとの事ですが、野菜のポテンシャルを引き出す程度にしか入っておらず、畑を感じさせる躍動感。
そして、もちろん「グラタン」がメインですが、サラダも脇役とは思えない存在感。
夢見心地のまま食べ進め、気が付けば最後のひと口。

いや、ふた口の量を最後のひと口にして、クライマックスを迎えます。

このひと皿で、何回のけ反っただろうか……。
美味しくて、食べている間は嬉しくて、楽しくて、何度も笑顔になって……。でも名残惜しい、食べ終えてしまうのが寂しい。
本当に美味しいひと皿とは、そういうものなのです。
感謝を込めて拝みましょう。

御馳走様でした。幸せです。
これが、銀座のど真ん中で愛され続ける『みかわや』の味か……。
4代目店主に訊く『みかわや』の歴史
ここからは、4代目店主・渡仲晋平(となか しんぺい)さんに、お店の歴史や、継いだ想いなどをお聞きしたいと思います。

── お店の成り立ちについて教えてください。
渡仲さん 今は無き劇場「有楽座」などの食堂や売店に食品を卸していた、明治時代から続く『三河屋食料品店』が戦争中の空襲で無くなり、当時の大地主さんなどの紹介で、祖父である初代店主・渡仲豊一郎が屋号を引き継ぎました。昭和23年にコロッケ屋としてスタートし、その後、昭和25年に『フランス料理屋 みかわや』として登記、再興しました。
── 初代店主・渡仲豊一郎さんはどんな方でしたか?
渡仲さん 『横浜ニューグランドホテル』の初代料理長であるS.ワイルさんから、直々にフランス料理の“技と心”を直伝された何人かの愛弟子の一人で、最後は副料理長にもなった人です。生まれも育ちも横浜ですが、ご縁あって、銀座にお店を構えました。
私はお爺ちゃんっ子で、祖父にはとても可愛がって貰いました。私が小学6年生の時、1993年(平成5年)に79歳で亡くりましたが、戦後の復興からバブル崩壊直後まで、『みかわや』を銀座に3店舗、青山に1店舗、計4店舗に育て上げました。

── 2代目、3代目店主の方についてもお聞かせください。
渡仲さん 祖父である初代店主・渡仲豊一郎には2人子どもがいまして、2代目が長男で私の叔父の渡仲耐治、3代目が次男で私の父の渡仲由幸です。
叔父がこのお店に立っていて、弟である父は4店舗全てのお料理の仕込み場のトップをやっておりました。兄弟、二人三脚で『みかわや』を支えておりましたが、バブル崩壊と共に少しずつお店を整理し、現在はここ1店舗で経営しています。

── 4代目として渡仲晋平さんが継いだ想いなど、お聞かせください。
渡仲さん 2代目の叔父もまた『みかわや』を愛し、ひげを蓄えた恰幅のいい姿に山高帽がトレードマークで、銀座の外まで名の知れた有名店主でした。しかし、2010年に叔父が体調を崩して一線を退き、父が3代目になりました。
しかし、父はずっと調理の現場におりましたので、叔父とは違って人付き合いがあまり得意ではなく、料理との会話の方が得意なタイプ。
そこで私に、‟お客様の前に立ってほしい”と白羽の矢が立ちました。ただ、私は長男(叔父)の息子でもないし、最初は一切お店を継ぐ気は無かったんです。当時、とある食品の会社で営業職をしており、転勤の時期とも重なっておりましたし……。
3回か4回ほど、父からの提案を拒否したと思います。すると、父が‟そろそろ店を畳もうか……”と言い出したんです。流石にその一言を聞いて‟おっ、ちょっと待てよ!”となりまして。

── それで継ぐことになったんですね。
渡仲さん 先ほども言いました通り、私はお爺ちゃん子で、祖父にはとても可愛がって貰いまして、ただ、私が小学校6年の時に亡くなりましたので、結局何の恩返しもできなかった。祖父・渡仲豊一郎がせっかく作った『みかわや』を、たった一言で潰されてたまるかと、待ったをかけました。
ただ、私も転勤もありましたので、そう簡単に身動きがとれるわけじゃない状況でした。そうしたことに悩みつつ、当時の上司に相談をしたところ‟継いだほうがいい!”と背中を押してくれたんです。そこから外で修行をさせてもらい、色々な準備期間を経て、今から4年前に『みかわや』を継ぎました。
── お店を継いで感じた、お店の味についてお聞かせください。
渡仲さん 実は私、3年前に祖父が修業した『横浜ニューグランドホテル』で結婚式を挙げたんです。その年、『横浜ニューグランドホテル』は創業90周年の年で、90年前の復刻メニューが食べられたのですが、その格式高いお料理を口にした時に ‟やっぱりうちの料理にそっくりだ!”と感じました。
祖父が『横浜ニューグランドホテル』で修業し、その後、日本人の口に合わせてご飯とマッチするように工夫し、多少のアレンジは加えたものの、おおもとの味はほとんど変えないで来ているということを感じました。創業90周年の記念展の写真に祖父の姿を見つけ、祖父の想いを再確認しました。

── 味を守り続けてきた秘訣は何だったと思いますか?
渡仲さん 何十年と通われている常連の方は、我々以上にお店の味を敏感に感じる舌を持ってらっしゃる。だから、万が一、もし味が変わっていたら、すぐに気付いてくださるんです。そんな時『みかわや』はお客様に“いつもとどう違いますか?”と、聞くようにしています。
味が変わった原因を即突き止めて、確認・修正し、昔からの伝統の味を“変えない努力”をしています。新しいものを作り出すことより、変えない事に精力を注ぎ、これからもお客様との信頼関係を築いていけたらと思います。

── 新型コロナなどの影響があったと思いますが、いかがでしたか?
渡仲さん 実は、新型コロナの期間の今年の4月1日に、メニューを少し増やしました。例えば、洋食の代表でもある「オムライス」は、実はうちのメニューには無かったのですが、今回メニューに載せました。
以前から常連さんのリクエストに応えて、色々と裏メニューとして作ってきましたが、今回その中からいくつかのメニューを整理し、吟味したうえで正式にメニュー化する時間に充てました。
銀座の街からは特に海外からの観光客の数が激減しました。しかし、以前の落ち着いた銀座に戻っただけだと思っています。今後も、真摯にお客様に向き合っていくだけです。

新型コロナに動揺することなく、これからもお店を真摯に守り続けるという、4代目渡仲晋平さん。
お忙しい中、ありがとうございました。

今年は本当に思いもよらない年になりましたが、『みかわや』のこの灯りが、いつまでも銀座を優しく照らし続けますように。

そして『みかわや』が、お店を愛する人にとって、いつまでも‟人生の止まり木”のような存在であり続けますように。
皆さんにも、親子3代、4代で通いたくなるような‟思い出の洋食屋”があるのではないでしょうか?
日本人みんなの憧れの「洋食」という名の和食文化、まだまだ東京のあちらこちらに有りそうです。巡って、その想い、歴史、人、町を探りたいと思います。

銀座みかわや
東京都中央区銀座4-7-12銀座三越新館1階
03-3561-2006
営業時間11:30 ~ 21:30(L.O.20:30)
https://www.ginza-mikawaya.com/
Text:Cook Inoue
Photo:Riki Kashiwabara
Edit:Takashi Ogiyama
クック井上。プロフィール
お笑いコンビ「ツインクル」のクック井上。です! 芸人でありながら、食のイベントMC・料理教室講師・食のプロデュース等も! ●フードコーディネーター●ホームパーティー検定●食育インストラクター●野菜ソムリエ●BBQインストラクター●アスリートフードマイスター●こども成育インストラクター●パエリア検定 など食に関する資格も多々あり。
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