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BUSINESS アパレル業界の挑戦者たち

小沢宏が語る、男が着る服との孤軍奮闘の歴史

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「センスが良いこととブランドが売れている」のは ほぼ無関係

日経BP社刊の『誰がアパレルを殺すのか』を手にとって、「ファッション業界関係者の中で話題になった本ですね」と言うのは、スタイリストでファッションデザイナーとして活躍する小沢宏氏。FORZAでは、「僕の捨てなかった服」企画にも登場していただいたスタイリングのプロ。

小沢さんは20代からファッション雑誌でのスタイリングと並行して、ショップの買い付けやオリジナルブランドのデザイン、外部ブランドのディレクションなども長く携わっています。自身がこれまで辿ってきた“服づくり”の歴史を訊きながら、「男の服の価値や未来」を紐解いていきます。

カシミヤメルトンチェスターコート 630,000円(税別)

人が思っているよりロジカルにはやっていないと思う

大学在学中に雑誌『POPEYE』のスタイリストアシスタントとしてキャリアをスタートした後に独立。エディトリアルのスタイリストをやりながら、20代に友人とセレクトショップをプロデュースしたり、そのショップのオリジナルブランドから派生したメンズブランドを立ち上げたり、近年は「トランスコンチネンツ」のブランド・ディレクターや「アシックスウォーキング」のクリエイティブ・ディレクターを手がけたりしてきました。

そういう肩書きや略歴だけを紹介すると、いろいろな仕事をしているように見えると思いますが、自分の中には「スタイリスト的感覚」がベースにあって、首の振り方の角度の違いだけで、根っこは一つだと思っています。

スタイリストの仕事は、たとえば雑誌のスタイリングなら、企画からモデルの選定、洋服の貸し出し、撮影、商品返却、ページ作りまでだいたい2週間程度で終わります。ファッションブランドの仕事は年2回、春夏と秋冬の区切りと展示会・受注会があって、それが続いていきます。スタイリストの仕事は短距離のよう、服作りはマラソンのような感じですが、自分の中ではどの仕事もスタイリストのような感覚で取り組んでいるという意味です。

新しい仕事のジャンルには常に興味があります。たとえばスタイリングでは、「ストライプのシャツと無地のシャツ」のどちらかを選ぶ理由をロジカルに説明し、そういう感覚的なことを共有するのは難しいことですが、ブランドディレクションはそれを可視化するのが仕事です。いわゆるコンサルティングとディレクションはまったく違うことで、「感覚を可視化する作業」にはとても興味があります。

資本に頼らない分、自前だと限界がすぐ見えてしまう

1988年、24歳のときに渋谷・ファイヤー通りにインディペンデント系のセレクトショップ『MADE IN WORLD(メイドインワールド)』を友人とともに開きました。自分は『POPEYE』のスタイリストアシスタントから次に進むフェーズで、今思い返すと、「素人がトップに出られる最初の時代」だったのかなと思います。

5坪の店に、日本で売っていないものを自分たちが買って置いていましたが、最初はビジョンやプランもなく場当たり的でしたね。商品のバイイングとスタイリストが似ているのは「モノを選ぶ」ことですが、あの頃は「面白ければいい」というノリだけでした。キャリアの早いタイミングから店やモノ=服に接していたことで、服を作るメソッドが手に入ったことから、店のオリジナルブランドを手がけて販売していましたが、「服を作りたかった?」と問われると、違うかもしれません。

オリジナルブランドから、「自分のアイデアやイメージを具現化したい」と、2003年にメンズブランド『Numero Uno(ヌメロウーノ)』をスタート。幸運なことに1stシーズンからユナイテッドアローズ、ビームス、シップスの当時のセレクトショップ御三家がオーダーしてくれて、良かったなという印象があります。

ヌメロウーノをスタートして、「ものづくり」に関してはストレスがありませんでしたが、「商売」としては当然ストレスを抱えます。シーズンによって売れ行きの差がダイレクトに返ってきて、最終的な「売れる、売れない」は、服の根っこを考えている自分にすべて降りかかってくるストレスはありました。

スタイリストはセレクトしていく仕事ですが、服を作り出すと、売るためのことと、作った先のことまで、ファッションを全方位的に見ざるを得ない。それを自前でやろうとすると、すぐ限界が見えてしまいます。「自前でやることの限界」は感じましたね。

自分の中で、「やる意味がある」から具現化している

「自前のブランドをやってみてのアパレルの難しさ」ですか? ブランドに関していうと「賞味期限」があること、「センスが良いこととブランドが売れている」のは ほぼ無関係ということ、そして、何度も言うようですが、「自前でやっていると経済的な上限が出てくる」ことでしょうか。

2016年に新ブランドの「オザワヒロシ エディストリアル(OZAWAHIROSHI EDISTORIAL)」を始めた理由は、それまで手がけていたブランドの賞味期限を感じていたのをリセットするのと、リセットするならもうちょっと“ギュッとしたもの”という違うアプローチでやるなら意味があると思ったからです。

格好良く言うと、トレンドやスタイリストの仕事のスピード感とは「真逆なこと」をやりたかった。ファッションは半年に一度のコレクションで消費されていくものですが、世の中の時流に乗るのとも違う、自分が経験として通り抜けてきた時代感とメンズファッションの歴史的ヘリテージの2軸で、積もり積もったものを具現化できればと思いました。

もちろんパーソナルな資本や資源の中で、真逆なことをやるわけですから、上限が見えます。人からはある種「酔狂なことをやっているな」とも言われるし、自分でも結果的に「さらに難しいことをやっているな」という意識はありますね。

2018年秋冬コレクションは、東京・白金台『BIOTOP』で展開

「オザワヒロシ エディストリアル」はオーダーメイドだと思っている人も多いようですが、既製服です。オーダーメイドでないのは、服と人の持っているものが上手くマッチすると、サイズを超越したところで人や服の良さが出ると思っているから。2016年のブランドスタートから「オーバーサイズで着る」ことを自分の意思で貫いてきましたが、3シーズン目になって時代のムードやトレンドとカチッと合ってきたと思います。

最初の頃は「マーケティングはしない」と言っていたのですが、服に限らず、世の中にあるモノすべてを流通させるためにはストラテジーとしてのマーケティングが不可欠です。こういう洋服を「やっている意義」を問われて、なかなか成功にたどり着くまでに至っていないのが正直なところですが、クラシックやベーシックなど、男の服だからできることの理想と現実の中で揺れ動きながら、3回目の秋冬コレクションを展開していくので、ぜひ店頭で見て欲しいと思います。

カシミヤコーチジャケット 270,000円(税別)


小沢宏(おざわひろし)
スタイリスト、デザイナー、有限会社フューチャーイン代表取締役。
1964年 長野県生まれ。エディトリアルのスタイリストとしてファッション雑誌はもとより、ファッションカタログも多数手がけている。自社ブランドやコラボブランドを含め、数々のブランドのデザイナーやディレクターでもある。
http://www.futureinn-tokyo.com/

「オザワヒロシ エディストリアル」取り扱い店舗
BIOTOP
東京都港区白金台4-6-44 03-3444-2421
http://www.biotop.jp/


Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii



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