悪質極まりない、そのやり口とは。
高齢者を狙った犯罪や悪質商法が後を絶たないが、相変わらず減らない「催眠商法」「SF商法」について、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう語る。
「一般的な相場に比べて、明らかに高額な値段で羽毛布団や浄水器などを売りつけられたという話を未だによく聞きます。
特に人との「コミュニケーションに飢えている」一人暮らしの高齢者の方などは、この手の商法にひっかかりやすいのが特徴です。中には、『ためになる話を聞けた上に優しくしてもらった』と売りつけた相手に感謝する人まで…。周囲の人は、高齢者が怪しい店に足繁く通い始めたら、気をつけて観察してあげてくださいね」
今回は「実家の母親が、詐欺まがいの商法に引っ掛かっているかもしれなく、みすみすそこにお金を使っているように思える」という女性に取材した。
「最初に母の行動が危なっかしいと思ったのは、ある『治療器』なるものを買ったあたりです」
こう話すのは、大幡千鶴さん(仮名)。結婚して実家を出てからすでに18年が経ったという47歳の会社員だ。頻繁に連絡を取ったり事務手続きなどの世話をしたり、「一人暮らしの母親」を遠方から長年サポートしてきた。
「実家の母は地方で一人暮らしをしています。田舎ではありますが、生活圏には、なかなか便利な町なんですよね。大きなショッピングセンターやドラッグストア、病院も徒歩圏内にあります。免許は返納していませんが、そもそも歩きで全て済むので助かっています」
母を呼び寄せたい思いはあったが、夫がいい顔をしないことと、母が地元を離れたがらないことを理由に実現できていない、と千鶴さん。
「一人が気楽でいい、今が一番幸せよ、と母は言いますが、本音はわかりません。父を9年前に病気で亡くしてから一人です。母はずっと専業主婦で世間知らず。何でも父に頼っていたので、亡くなった時は見ていられないほど落ち込んでいました」
まもなく71歳になるという千鶴さんの母が、「治療器」の販売をする人たちに出会ったのは、通い慣れたショッピングセンター内だった。
「電話は生存確認のために毎日のようにしていますが、その時は体にいい器具を買ったとだけ聞いていました。私もそんなに真剣に母の話を聞いているわけではないので、マッサージ機でも買ったのかしら、くらいに思っていたんです」
治療器を買ったとの報告を受けた数か月後、久しぶりに帰省した千鶴さんは、リビングの片隅に放置されて埃を被ったその「治療器」の姿を見た。
「お母さん、あれ何?と聞くと、それこそがまさにショッピングセンター内で買った治療器だと言いました。よくよく聞くと、母が治療器を買った『店』というのは、ちゃんと店舗を構えていなく、2週間ほどポップアップみたいな感じで出店していたお店だったんです」
母いわく、「私のからだのことを本当に親身に聞いてくれるのよ。背中が張っていますねとか、お白湯を飲むと良いですよ、そうそうこんな食事に変えると身も心も元気になりますよ!って私の健康についても心の底から心配してくれるの。
独り身は寂しいでしょうから、いつでも話相手になりますよって。ためになる話をいろいろと教えくれるし、お店の人がみんな私のことを凄く心配してくれるよの」と母は嬉しそうに語った。
「ちょっと異様な感じがしたので、母には『年寄りを狙った犯罪が多いんだから気をつけないとダメよ』と言うと、『親をバカにするもんじゃないわよ。犯罪集団だったら、どうしてあんな名のあるスーパーが場所を貸して商売させるの?と反論してきました」
千鶴さんは、そう言われると確かにそうかもしれないと思った。
「で、そのだいぶ後に、私が住んでいる町のショッピングセンターで買い物していると、たまたまいたんです!似たような治療器の販売をしている人たちが」
ショッピングセンターの広場の一部に囲いが施され、中はセミナー会場のようになっていた。
「そこで聞かれたのは、高齢者を徐々に手なずけるような、練りに練られたセールストークでした」
記事の後編では、千鶴さんが実際に目にすることになった「治療器」販売所での巧みなセールストークと、さらにアヤしい商売に引っ掛かっていった千鶴さんの高齢母の体験談を紹介する。
取材/文 中小林亜紀
PHOTO:Getty Images