文科省によると、精神疾患で休職した公立学校教員は6539人以上に上り、2年連続で過去最高を記録したという(令和4年度)。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、体調を崩す教職員が増えている現状についてこう語る。
「もともとの業務の大変さに加え、生徒や保護者との関係などに悩み、精神的に追い込まれる先生は後を絶ちません。ただ、保護者側からも、教員に対してどの程度なら要望や相談をして良いのか
不安になるという声も聞かれているので、今後ますます、教員不足問題は深刻化・複雑化していくのではないかと心配です」
今回は「子供の担任教師の休養について不安がある」とご意見をくださった女性への取材内容を記事化した。
※ご本人特定回避のため、取材内容に編集を加えております点をご理解ください
「2学期が始まって早々、娘の中学校からプリントが配られました。全校合計で4人の教員が病気療養をしているという、衝撃の内容でした」
こう話すのは中学1年の娘を育てる小川原実穂さん(仮名)。
「お便りの中には、もちろん病名など個人情報に関わる表記はありません。休んでいるので、他の教師が対応しますという事実だけでした」
お知らせプリントに書かれた情報はきわめて限定的だった。
「4人が4人とも担任をお持ちの先生で、そのうち2人は1学期からすでに休んでいたとのことでした」
4名の教員のうち、実穂さんはある人物の名前に目を留め、息を飲んだ…
「2学期になって療養組に加わったうちの1人が、娘の担任だったのです」
実穂さんは、いまどきの先生の「病気療養」といえばメンタル面の不調が多いということは知っていた。
「先生はニコニコしていて話しやすい人です。入学式の日は、若い先生ということもあり、娘も親しみを感じたようで、この方が担任で良かった、と安心していました」
娘の中学生活は順調に滑り出したように見えた。ところが、ゴールデンウィーク明けあたりから、クラスに不穏な空気が漂い始めたという。
「娘の席の近くの男子生徒3人が急速に仲良くなり、朝の始業前や休み時間になると、クラスの女子に対して、口汚い言葉をさかんに言い始めたということでした」
実穂さんの娘も至近距離にいるのに、わざと聞こえるように「陰キャのキモオタ」などと悪口を言われたそうで…
「娘以外の女子に対しても、悪口や外見への揶揄を大声で言い放っていたようです」
最初は「女子に興味がある年頃だから構ってほしいだけじゃない?」と娘を諭していた実穂さんだが、次第に会話の内容が過激になると、黙ってはいられなくなった。
「その男子3人の会話は次第にエスカレートしていきました。娘や他の女子生徒の胸の大きさなどについても大きな声でからかい始めたと」
小学4年生頃から胸が膨らみ始めた実穂さんの娘。悩みの中でも深刻なものの一つだったという。
「気にしていることを指摘・揶揄されただけでもキツかったようですが、さらに恐ろしい言葉を口にされたと…」
実穂さんの娘さんはクラスの中でも大人しい方で、口数が少ないタイプ。
「『こいつだったらヤレんじゃね?』と言われたそうなんです。それも、娘のすぐそばで。娘は固まってしまったと言っていました。ただ『ヤレる』とは何を意味するのかは本人も想像しきれていなかったみたいですが、ただ怖かったと…」
このような凶器にも該当する言葉は、娘以外の女子生徒にも向けられた。
「直接ではなく、周りに聞こえるように大きな声で言ったとのことですが、この男子生徒3人は不良ではないけれど『やんちゃ枠』というか、『攻撃的』でみんなが恐れていました。なので、周りの生徒も見て見ぬフリをするしかなかったようなんです」
話を聞いた実穂さんは、娘の友達の母親、つまりママ友に相談した。
「同じクラスの女子の中には小学校の頃からママと知り合いの子もいるので、そのママ友に話してみると、『私も聞いている!ガラの悪い3人組がいるらしいわね』と怒っていました」
実穂さんはママ友からの勧めもあり、夏休み前の担任との面談で相談することに決めた。
ところが、この面談時には実穂さんが納得できる対応をしてもらえず、その後、夫やママ友も参戦し、担任教師には大きな重圧をかけることになってしまった。担任と実穂さんらのやりとりの様子は【後編】にて詳報する。
取材/文:中小林亜紀
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