夏休みも終わり、いよいよ入試に向けての仕上げ期間に突入する。中学受験も同様に徐々にギアチェンジが求められるシーズンだ。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「首都圏模試センターによると昨年の首都圏中学入試の私立・国立中学校の受験者総数は52,400人で、2023年に続いて過去2番目。小学6年生の4,7人に1人は受験をした計算になります。これはすごい数字ですよね。我々の子ども時代には考えられなかったことです」。
確かにクラスでも塾に通う子供が多い印象だ。
「東京都教育委員会の公表した資料によると2023年文京区では、私立中学への進学率がなんと49.50%。2人に1人が私立に進学している計算です。今は私立中学と一口に言ってもさまざまな選択肢があります。そういった背景も受験者数増加に寄与しているのかもしれませんね」。
過熱する中学受験戦争のなかで、とある疑問を抱く母親から話を聞いた。
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菅原はなさん(仮名・40歳)は、中学校1年生と小学5年生の子どもを持つ母親だ。長女は昨年中学受験をして、私立中学に入学。次男も今のところ、受験をする予定だと話す。しかし、はなさんに競うような雰囲気はみられない。
「どうしても私立じゃなきゃ!みたいな気持ちはありません。ただ区立中学は、学年2クラスと人数がすごく少ないんです。結局、そうなると部活動も縮小傾向。小学校からずーっと変わらない環境ということも気になり、長女と相談をして中学受験を決めました。塾に本格的に通いはじめたのは、小学校5年生と中学受験としては遅めのスタートでしたね」。
小学3年生の2月から、新4年生として塾通いをするのが進学塾では一般的だという。
「もちろん小学校1年生から通っている子もいますけど、多くは4年生になる前のタイミングでいくみたい。長女はスイミングクラブに通っていてそちらに力が入っていましたし、4年生の時点では受験をするかどうか決めていなかったので、タイミングがズレたって感じですね」。
長女は無事に第一希望の中学に合格した。
「我が家は夫も私も中学受験を経験しています。その大変さは身に染みてわかっていますし、長女との距離感についてもかなり気を遣ったつもりです。できる限り、本人が本人の力で勝ち取れるようサポートに徹しました。できているかどうかはわかりませんけどね」。
志望校も学校見学を重ねた上で本人が選択したそうだ。
「中学受験を通して学ぶことはとにかくたくさんありましたが、何より長女の成長を感じられたことが1番嬉しかったです。でもこういう話は全然できませんでしたね。特に塾のママ友たちには…」。
というのも熾烈な中学受験戦争のなかでは、はなさんのようなスタンスはマイノリティだというのだ。
「みんな親がとにかく必死なんですよ。組分けテストのたびに、親が歓喜している姿を目にして本当に恐怖を感じました。うちの子は途中から入ったにもかかわらず、比較的いい成績だったからか、目の敵にされることも多くて…。結構怖かったですね」。
気まずそうに笑うはなさん。一体どんなことがあったのだろう。
「進学塾は、夜9時過ぎまで授業があるんです。1人で帰ってくるのは、さすがに危険なのでお迎えに行くんですが、そこで待ち受けているママ軍団に捕まるとえらい目に遭うんです…」。
ーB子ちゃん、成績すごい優秀。
ーママとパパはどこ出身なの?親の学歴大事だよね。
ー5年生からなのに、今まではどこで勉強してたの?
質問責めにあったらしい。中でもボスママがはなさんに執拗に質問を繰り返していたという。