学歴と年収に相関関係があるのは有名な話だろう。厚労省の賃金構造基本統計調査によると、高卒と大卒の初任給を比較した場合には4万円以上の差が、月収にすると両者には9万円ほどの差があるといい、収入面での「大卒有利」が裏付けられている。
しかし、いわゆる既卒の就職不利問題や、特定大学以外の大学からは採用しない「学歴フィルター」の存在などは常にまことしやかに囁かれており、大学進学率が6割に迫る今、単なる「大卒」が必ずしも子供の将来を明るくするとは言えない。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、次のように指摘する。
「見栄えの良い学歴をつけておきさえすれば子供の将来は明るいはずだと思い込んでいると、想像もしていなかった結果が待っているケースもあります。
採用においては未だ学歴を重視する企業もあるでしょうが、それ以上にコミュニケーション力や主体性、地域活動・ボランティアといった学外活動の実績などを重視する企業も増えています。
子供の学びについては学歴だけでなく、さまざまな社会経験ができるよう、親子で話し合う時間を設けて、建設的に将来を考えるよう助言されてみてはいかがでしょうか」
今回お話を聞いたのは、15歳年上の夫に一昨年先立たれたという主婦の野々村美知枝さん(仮名・56歳)。目下の悩みは、週に数度のアルバイトをしてのらりくらり生活している未婚の娘のことだ。
「娘はムダな学歴を持つ32歳です。今、家を出て自活するようせっついてはケンカになっています。結婚してほしいのは本音ですが、せめてちゃんと就職するとか、これがやりたいんだ!というものを見つけるとか、一度は独り立ちしてくれと言いたいです」
美知枝さんの娘は一昨年他界した夫が39歳で初めて授かった子供で、溺愛されて育った。
「夫の娘に対する可愛がりようは凄かったですね。夫は不動産会社の3代目で、娘にはお金をたくさんかけることもできたんです。今思えばそれも仇となりました」
マナーや挨拶には厳しい夫だったが、娘が決めることには何一つ反対しなかった。習い事でも何でも、やってみたいと言えばすぐにやらせ、やめたいと言えばすぐにやめさせたという。
「かつての娘は根気がなく、学校の成績はいつも悪かったです。特に理系がひどかったですね。高校は付属の短大がある女子高に推薦入学で拾われましたが、偏差値の低い”バカ女(じょ)”だけど大丈夫かと私の実兄にからかわれて……」
娘は特に目的意識もなく女子高に通い、そのままエスカレーター式に短大に上がった。しかし、短大で周りが就活を始める頃、両親を目の前にして突然こう宣言したという。
「私、今の学校が最終学歴になるのは嫌。今まで何の努力もしてこなかったから、自分がどれだけできるか試してみたい、と言い出したんです」