「地域の人はどこが危ないのかわかっていますし、みんな人目があるからマップなんかなくても安全運転をするんですよ。自治会長である主人も、注意喚起マップを作ってはいるけど、見るのは地域の人だけ。何の効果もない、と言っています」
農道の問題は一向に進まないが、一方で生活道路については警察が動いてくれた案件もあった。
「ずっと前から何度も何度も訴えかけてきて、ようやく時間帯通行規制の標識が立った場所があります」
地域の中学校の通学路に指定されているある生活道路は、すれ違う時に緊張を強いられるほど道路幅が狭いが、混み合う県道を回避しようと、違法な速度で抜けていく車両があまりに多い。徒歩・自転車通学の子どもたちが何度となく危険にさらされてきたという。
「ここはうちの子が中学に通っていた10年以上前から学校や市に相談していた危険な道ですが、なかなか動いてもらえませんでした。ですが、うちの町内の役員数人で市議さんに直談判を繰り返していたところ、職員さんたちが侵入車両の数や速度を測りに来てくれました」
民家もまばらな静かな生活道路も、通勤時間帯には恐怖のデスロードに変貌する。現地視察に訪れた市の職員も、想像以上の交通量とスピードを目の当たりにして驚いたという。
「見てもらえばわかるんですよね。そこからは警察も連携してくれて、時間帯通行規制の標識が正式に立ちました。見落とされないように立て看板も設置してもらえましたよ」
小さなトラブルが多数起きていたこの通学路で、大事故が起きる前に対策が取られたことはとても良かった、と菜穂子さん。ところが……
「自転車通学する子どもたちや保護者がいつも車に怯えていたので、それがなくなって良かったとみんなで喜んでいたのもつかの間。交通量自体は減りましたが、標識を無視して侵入してくる車は後を絶ちません。標識が立って油断している今こそ、事故の危険が高まっている気がします」
時々は取り締まりに来てもらえるとありがたいのですが、とため息をつく菜穂子さん。地域住民の取り組みだけでは、歩行者や子どもを事故から守ることは難しい。運転者の心がけがなければ、どんな事故も防ぐことはできないのだ。
TEXT:中小林亜紀
※この記事は取材に基づいていますが、取材対象者保護の観点から必要に応じて編集を加えておりますことをご理解ください。