自民党青年局が過激なダンスパーティーの開催理由に挙げた言葉として、改めて話題となった「多様性」。もはやただの便利なワードになり下がった感を覚えた人も少なくないだろう。
社会の中には、とりわけ庇護されるべき立場の弱い人たちが確実に存在するが、多様性というわりにマイノリティとマジョリティという単純な図式で何かが語られる風潮は根強い。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、社会における多数派・少数派についてこう指摘する。
「当然のことながら、あなたという存在は世界にただ一人です。抱える悩みやつらさは人それぞれであり、診断書やカテゴリがなくても、生きているのが苦しいと感じる思いは誰にでもあるはず。
多様性をうたう現代社会は、誰もが生きやすい社会を目指すという途轍もない難問に挑んでいます。『多数派』にカテゴライズされる人々が『少数派』を許容し守るために課される使命の重さも相当なもの。政治は多様性という言葉を便利に使うのではなく、こうした『多数派』の暮らしもしっかりと守り、真の多様性を目指してほしいものですね」
※この記事は取材に基づいていますが、取材対象者保護の観点から必要に応じて編集を加えておりますことをご理解ください。
今回、少数派に優しい経営を目指す経営者の下で悩みながら働いている、という女性から話を聞くことができた。38歳のパート従業員嶋元舞香さん(仮名)である。
「うちの職場はあるサービス業です。社長は多様性重視の会社をアピールしたい意図もあるのか、10年ほど前から社会的弱者といわれる方を積極採用しています。いいことだと思うけど、私はそういう方たちのフォローをするために働いてるわけじゃないと思う場面も多いです」
舞香さんの勤務先がサロン系のお店の運営会社である点だけは公開の許しを得た。
「静かなお店なので、接客業といっても元気に声を張り上げたり、たくさんトークしたりする必要がない職場なんです。それでいて手に職をつけられ、会社が民間資格取得のサポートもしてくれます。なので、働きたいと言ってくる人は次々現れますね」
舞香さんは複数店舗を経営する社長の下、12年間真面目に働いてきた。
「自称コミュ障、ADHD、HSP...あとはうつで入院してた経験がある方とか、これまでにもたくさん働いては辞めていきました。あと、シンママや離婚する予定がある人の面接は安定的に多いですね」
立場やメンタルの弱い人の受け皿になりたいという社長の考え自体には理解を示している舞香さんだが、そのような職場ならではの苦労は少なくないと語る。従業員の中にはうつがひどくなり、結局フェイドアウトする人もいるという。
「例えば、躁とうつを繰り返すという30代の女性は知らない間に入院したりしていて、無断欠勤は日常茶飯事でした。で、長期間の休みが続いていたある日、突然私に面会に来てほしいとその人の親から電話がかかってきたんです。なんで社長じゃなくて私なの?と……」