【前編あらすじ】
中山俊さん(31歳・仮名)は、関東地方の金融企業で営業担当の部署に所属している。
新卒入社からずっと現在の企業で働き、気づけば中堅社員。新卒や20代の若手社員へ指導する立場だ。
ノルマを達成するため営業活動に邁進している彼は人当たりがよく、今まで同僚・上司には恵まれてきたよう。
しかし、尊敬する上司のあと人事異動でやってきたのは、パワハラやセクハラで問題行動で有名な40代後半のA氏だった。
「こんな奴が課長なんて、終わったな......」部署内のメンバーは心の中でそう思い、A氏の高圧的な態度に耐える日々。
後半では、パワハラ課長A氏の暴走により崩壊寸前まで追い込まれた部署メンバーが取った行動、A氏のその後についてリポートしていきたい。
・・・・・・
年の瀬が近づき、俊さんの部署は年末の駆け込み業務や法人営業の対応に追われていた。
目標達成に向けて努力したものの数字が伸びることはなく、見込みを含めても厳しい状況となっていた。
「毎週恒例、圧力だらけのミーティングでは『なんでで達成できなかった!?』『俺が新規開拓したところも振っただろ!』『今回も達成できなかった理由を一人ずつ言ってみろ!説明できない?普段なに考えて仕事してんだよ!』と詰められました......。確かに、A氏は率先して仕事をするのですが部下への対応や言い方がとにかくキツくて。なかにはもう限界、退職を考えているといった20代男性社員もいて、みんな仕事に対するモチベーションがなくなっていました」
実際、俊さんの企業はハラスメント防止に力を入れており、意見箱は営業所内に設置してあった。だが、その意見箱の中身を確認するのは営業所長だ。営業所を統括する彼が中身を確認し本部へ報告するため、素直に意見を書いて投函する者はいなかった。
部下達はA氏の発言や態度に我慢できずにいたが、果たしてパワハラを告発したところで人事部が適切に対応してくれるだろうか、自分が別の営業所へ異動になれば大事にしなくて済むからそれまでの我慢だ、と思い淡々と仕事をこなしていた。
そんななか、同じ営業部の女性社員B子が体調不良で休みがちになった。
「仕事のストレスで休みがちになってたと思ったんですが、実は妊娠していてつわりがキツかったようです。直属の上司のA氏にだけ妊娠を報告。つわりで体調が安定しないため急に休む可能性があると伝えたら『オーケー。渉外担当が抜けると困るから、明日の朝礼で営業所の皆に妊娠のこと伝えとくわ。まだ初期だから言わないでください?いやいや、それはダメだろ』と言われたようです」
B子は泣きながら本部へ連絡し、A氏の今までの高圧的な態度をすべて報告したようだ。
「B子は、まだ安定期にも入っていないのに勝手に報告するのはひどい、全体朝礼で言う必要がある?妊娠初期のため万が一のことがあったら......と、朝礼で全体に言われる前に人事部から注意してくれと伝えたようです。妊娠に限らず、個人の体調不調を朝礼で報告する義務はないですよね。直属の上司なら理由を知っててもうまく流すとか、速やかに新しい担当を配属するとかあるはずなのに。自分の昇格しか興味ないし、部下のことは1ミリも考えてないです、あの人」
B子の告発のあと、A氏はすぐ人事部長から電話で注意を受けたらしい。
「本部から注意を受けたA氏は不服そうでしたが、B子の妊娠を朝礼で報告することはありませんでした。A氏は実績を出しているため、口の悪さや高圧的な態度には本部も目を瞑っていたようです。あと、人事部長から営業所長へ連絡が来たみたいです。問題が大きくなると離島行きの可能性もあるぞ、気をつけろと所長から言われたみたいですよ」
会社は離島にも支社があり、何かしら問題を起こした社員は暇な離島支社へ配属されるのが慣例になっていた。
実際A氏は、実績だけを見ると人事評価は高かった。しかし、過去の部下へのパワハラや女性社員へのセクハラ発言に加え、今回の妊婦に対する態度は見過ごすことができなかったようで、人事部からイエローカードを出されたのだ。
A氏が課長になり半年が経ち、新年度が始まった頃。営業所内に衝撃的な出来事が起こる。なんとA氏へ離島勤務の辞令が下ったのだ。
「人事異動は社内システムで掲示されるんのですが、辞令を見たときは本当に驚きました。部署の全員が心の中でガッツポーズですよ(笑)4月の辞令って、通常は一般社員の異動がメインで管理者は主に9月なんです。本部がA氏を見限ったのか、こっちへ赴任してきて半年で離島への辞令、これは異例ですよ。さっさと送別会を済ませてA氏は飛び立ちました。子どもはまだ中学生のようで、単身赴任らしいです」
その後は温厚で信頼できる人が課長になり、営業部のピリついた雰囲気は改善しコミュニケーションも増えた様子だ。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は言う。
「パワハラをする人の特徴は、共感力や倫理観が欠如している、承認欲求が高いなどが挙げられます。自分の利益や権力のために部下を犠牲にし、成果や効率を重視するタイプにはパワハラ気質があります。管理者になると部下の気持ちや立場に理解を示さなければなりません。社内でパワハラを受けたら、まずは周囲や会社の窓口、人事担当へ相談しましょう。内部で解決できそうにないなら全国の労働局にある労働相談コーナーへ電話をかけてみるとよいです。ハラスメントは我慢しても解決せず、むしろ悪化するケースがほとんどです。周囲の協力を得ながら再発防止に取り組み、労働者のための職場環境をよくすることが大切です」
俊さんは安心した顔で話す。
「離島の営業所は高齢者が多く、法人が少ないのでノルマはあってないようなもの。A氏は戦闘力を失ったのか大人しくなっているようです。会社って、働く人や上司で変わりますよね。営業部のチームワークがよかったから僕は病まずに済んだのかもしれません。A氏の離島勤務が満期になったら次はどこへ配属になるか......。今後、一緒に働くことがないよう祈るばかりです」
パワハラによる精神的苦痛は、うつ病になり社会復帰が難しくなるケースも多い。
今回のように、徐々に社内に味方を増やしていくのも円滑にパワハラをやめさせる方法なのかもしれない。
取材/文:錦城和佳