「世間で大きく取り上げられるようになって久しいハラスメント問題。職場や学校でのケースがよく注目されていますが、家族の中でのハラスメントに関する相談も増えてきています。」
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう語る。今回は日常に潜む家庭内でのハラスメントの実体験をご紹介する。
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遠藤保奈美(38)は、年の瀬が近づくと憂鬱になる。最も苦手な行事“帰省”が待ち構えているからだ。
「年末年始はたいてい1泊2日で、帰省しています。とにかく田舎なので、女は3歩下がって……みたいな風習でろくに食事もできないし、もちろんお酒も飲めません。おめでたいはずのお正月が、私は1年で1番嫌いな季節なんです」
ちなみに保奈美が帰省するのは、夫の実家ではない。自分の実家である。
「父の女たるもの、嫁たるもの……は当たり前。母は私のときはもっと大変だったんだから、あなたは幸せな方よとマウントを取ってきます。春休みや夏休みは、仕事があるとスルーできるんですが、年末年始は家族分の航空券が送られてくるので、逃げられません」
保奈美は幼い頃から、兄だけが特別待遇を受ける実家が大嫌いだった。この家から出られるならどんなことでもできる、その強い思いだけで国立大学入学を果たしたほどだ。
「両親の口から出るワードは、今の世の中なら公に発言したら叩かれるようなものばかり。そんなひどい言葉を子どもたちに聞かせることになるのも本当に嫌でたまりません」
保奈美の夫はそれをどんな風に見ているのだろうか?
「夫はあまり気にしていないようです。親なんてそんなもんだろ? と。帰省すれば、彼は上げ膳据え膳。父と兄の晩酌の相手をすることだけが使命と割り切っているようです」
12月に入り、帰省が近づいてくる……保奈美はそう構えていたが、今年はどうやらいつもと勝手が違うらしい。
航空券が送られてこないのだ。
12月に入り、帰省が近づいてくる…保奈美はそう構えていたが、今年はどうやらいつもと勝手が違うらしい。
「例年送られてくる航空券が届かなかったんです。ついに行かなくてもいいのかも! と思ったんですが、子どもたちから帰省をせがまれて仕方なく両親に連絡を入れました」
バタバタしていて航空券を送るのを忘れていたとのことだったが、どこか元気のない様子が気にかかり、保奈美は聞いてみたという。
「何かあったの?って。母は何か話そうとしていましたが、後ろから父が止めたようで結局は何があったかわからないまま帰省をすることになりました」
いつもなら空港まで迎えにきてくれる兄も今年は連絡をくれなかったので、保奈美は仕方なくタクシーで実家まで向かった。
「到着して、正月とは思えない空気の重さにびっくりしました。父と兄に尋ねてもなかなか口を開かないので、母を問い詰めるとびっくりする答えが返ってきたんです」
なんと父と兄が訴えられたというのだ。訴えを起こしたのは父が会長、兄が社長を勤める会社の女性社員だという。しかも、1人ではなく複数だ。
「どうやら父や兄は、社員にも私に対するようにKY発言を繰り返していたみたいなんです。パワハラ、モラハラ、セクハラ、ジェンハラ……ハラスメントのオンパレード。このご時世、もちろん録音されていたようで……弁解の余地なし。『男なのにそんな仕事もできないのか』『女のくせにでしゃばるな』、『こんなことも知らないなんて、お里が知れるぞ』とか。解任は免れられない、そんな状況のようでした」
保奈美はすっかり憔悴しきった父と兄から、ある提案を受けたという。
「2人から会社を継いでくれないかと頭を下げられました。びっくりしちゃいましたよ。女のくせに勉強ができても仕方ないとか今までとことん私のこと虐げてきたくせにどの口が言うんだよって」。
二人の失脚は、保奈美にとって都合がよかったが、今度は実母が豹変したという。
次回ではさらに詳細にハラスメント家族の実態をレポートしていく。
Text:女たちの事件簿チーム