<前編のあらすじ>
生まれた頃から「なかなか寝なかった」息子を持つ吉永瑠璃花さん(仮名)。寝ないことによる息子の体への不安、たまり続ける自分のストレスなど、悩みは深刻だったが、周囲は一貫性も信憑性もないアドバイスをくり返すだけであり、そのことが余計に瑠璃花さんを苦しめることになった。その後の息子さんの睡眠事情はいかに?
夫の実家でも、乳幼児期の息子はなかなか眠気をもよおさなかった。夜中にスクッと立ち上がり歩きまわる。寝たかと思えば、やがて激しく夜泣きを始める息子を見て、困り顔を浮かべた姑は、瑠璃花さんに対し、こんな心ない言葉をかけたという。
「『ねえ、瑠璃花さん。この子はどこかおかしいんじゃないの?普通じゃないわよ。良いお医者さんに診てもらったら?』とお義母さんに言われました。私、育児がつら過ぎて、当時は豆腐メンタルになっていたので、その場で泣き出してしまいました」
姑は涙を流す瑠璃花さんを見て、こう切り返した。
「え、何その涙。良かれと思って言ってるだけじゃない。この程度のことで泣かれたら、私がお嫁さんをいじめてるみたいじゃない!と言って、さらに神経逆撫でしてきたんです!マジで今でも大嫌いです」
自分の育児ペースを作りたくても、善意か悪意か、必ず周囲の誰かが不安をあおってくる。瑠璃花さんは、当時そんなふうに感じていたそうだ。
「保育園に入ってからも、息子の『不眠』は健在でした。夜11時頃まで起きていても朝5時にはお目覚め。また、入園してから卒園するまで、息子は一度たりともお昼寝をしなかったそうなんです。先生から聞いて驚きました」
当時の息子は日中の運動量も多く、食事もしっかり摂れていただけに、睡眠時間が極端に短いことへの不安はとても大きかった。
いろいろな人から「疲れたら寝るんだから、しっかり遊ばせないと~」と言われたという瑠璃花さん。できることは何でもしていたため、やはり息子はどこか悪いのか? それとも自分に問題があるのか? と悩みを深めてしまった。
「最終的に助けてくれたのは、保育園年中さんの時の担任の先生です。『お母さん、寝ない子なんていくらでもいますって。寝たくなれば勝手に寝ますよ。心配いりません』と声をかけてくれたんです。保育のスペシャリストにこう言ってもらえて、とても気が楽になりました」
どちらかというと「悩み飽きた」と瑠璃花さんは言う。
「長く悩み続けて、その悩みに慣れたという感覚もありました。そうだな、寝たければ自然に寝るよな、って開き直れるようになったんです」
「小学校に入って、サッカーを習い始めてからも変わりませんでした。その頃には、もうなるようになれって感じで。疲れているふうでもないですし、健康そのもの。もう放置ですよ」
現在小学校5年生になったという息子さんは、一体どんな生活をしているのだろうか。
「朝は4時に起きてドリルやゲームをしています。目覚まし時計なしで自然に起きるんです。夜は9時頃に寝るようになりましたね。お義母さんが言ってた『どこかおかしい』が間違ってたことだけは確かだと思います!」
息子さんの睡眠時間は、少ないときはには6時間台になることもあるというが、概ね7~8時間ほどは確保できているという。
「今となっては、どうして息子があんなに寝なかったのか、今あんなに早起きが得意なのかはわかりませんが、同じような悩みを持っている乳幼児を育児中の方には、『寝なくても異常なんかじゃないよ』と言ってあげたいです」
育児本とにらめっこをして「うちの子はこれと違う」「うちの子はこうじゃないからおかしいかも」と真剣に悩んでいた頃の自分にも、全然問題ないよ!と声をかけてあげたい、と最後に語る瑠璃花さんだった。
※この記事は取材に基づいていますが、取材対象者保護の観点から必要に応じて編集を加えておりますことをご理解ください
取材/文 中小林亜紀
Photo:Getty Images