就学前準備に子どものランドセルを選んで購入するまでの一連の取り組みを意味するいわゆる「ラン活」。
毎年展開される業界内の宣伝競争や、ヒートアップする親・祖父母の姿に圧倒された経験を持つ方々もおられるのではないだろうか。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は言う。
「ラン活は少子化に伴ってむしろ選択肢が増え、比較的お手頃な大手メーカー系から高級な材質とハンドメイドの良さを前面に出したいわゆる「工房系」まで多種多様。
まさにランドセル戦国時代となっています。祖父母にお金を出してもらうというご家庭では、父方母方どちらの祖父母が買うかでひと悶着、などということも。
あまり色んな人の意見を聞きすぎると、いつまでもラン活が終わらない上に、人間関係にもヒビが入りかねないのでご注意を」
今回お話を聞いたのは、来年小学校に入学するわが子のためのラン活がこの夏にようやく終わったばかりだという岡上亜矢奈さん(仮名)。随分早いランドセル準備に聞こえるが、「全然早い方ではないです」とのこと。
ラン活は年明け1月に始まったが、誰がお金を出すかという「ラン活前哨戦」に至っては、すでに前年末から勃発していたというから驚きだ。
「正確には、年中さんからラン活は始まるんです。随分前から先輩ママに『ランドセル選びが大変だった』という話は聞いていていろいろ下調べしていたのですが、
とにかくブランドとか種類がめちゃくちゃ多いんです。ブランドを決めたとて、デザイン・材質・カラーと、選択の連続」
最初は選択肢が多いことを楽しみに感じていた亜矢奈さん。しかし、すぐにその気持ちも「これって、ちゃんと最終決定できるのかな?」という不安に変わったという。
「特に、工房系のランドセルは数量限定のブランドもあるので、その年の新作が解禁になる時期は、ホームページがサーバーダウンしちゃうほどアクセスが集中するっていう噂を聞いたこともあって、戦々恐々でしたね」
ラン活を開始当初は、選び方がさっぱり分からないだけでなく、亜矢奈さんの両親と夫の両親の間で、どちらがお金を出すかで小競り合いとなったことも亜矢奈さんを悩ませた。
この「どちらの祖父母がランドセルを買うか問題」は、ランドセル商戦の幕が切って落とされる前年からすでに始まっていたという。
「私の友達の家は、妻と夫の親同士が折半しようということで仲良くプレゼントしたとか、どちらかがランドセル、もう片方が勉強机なんていう話も聞くのですが、
うちのじじばば達はランドセルに特別な思い入れがあったようで、譲らなかったんです」
両親と義両親のランドセル購入権をめぐるバトルはしばらく続いたという。
「ベビーベッドはこちらが買った、こいのぼりはこっちが買った、とかプレゼントの実績を挙げだして、お互いに次はこっちの番だと言って『ランドセル買ってあげる権』の取り合いになり、
そちら様は学習デスクをお願いします、いえいえそちらが、みたいな感じになってましたね(苦笑)」
いずれにしても高額とされるランドセル。亜矢奈さん夫婦の場合は、自分たちの懐を痛める心配は最初からなかったことは間違いない。
「そうなんですけど、両親が義両親のことを『やたら高額なものを与えたがる見栄っ張り』だと言ったり、義両親は義両親で夫に『あっちの親は出しゃばりだ』と言ったり、いやな感じになってましたね。私たちは板挟みになってうんざりでした」
誰がランドセルを買うのかが一向に決まらないため、話し合いの結果、今度入学する子のランドセルは義両親が、現在3歳の下の子のランドセルを亜矢奈さんの両親が買うという話で何とか一件落着したという。
しかし、ランドセルの購入権は決まり安心していた亜矢奈さんにはさらなる苦難が待ち受けているのだった。
後編に続く。
取材/文 中小林亜紀