【前編のあらすじ】
結婚20年目を迎え、2人の息子をもつ戸塚まりこ(仮名・45)は、自身が活動していたサークルのお話し会で見かけるようになった親子。まりこは、親子の仲睦まじい姿と、父親の見た目とは裏腹な実直さに、興味を示すようになる。
「あるとき、外の公園で2人がおにぎりを食べていて、その姿があまりにも幸せそうで、私思わず見惚れてしまって……。」
まりこは話す。
「自分の夫のそういう姿は見たことがなかったし。それに比べて彼は、初めて見たときからは想像もできないくらい優しい顔をしていて……。図書館の中から見ていたのに、あまりにも私が長く見ていたからか気がつかれてしまって、恥ずかしくなって目をそらしてしまいましたけど」
その日の帰り、まりこがお話し会の片付けを終えて駐輪場に行くと、親子はまだ公園で遊んでいた。
「『また再来週!』と自然に声をかけていました。すると彼の方がこちらに小走りにやってきて、あるショップカードを渡してくれたんです。『よかったら遊びに来てください』と。びっくりしました。とても急だったから」
それは美容院のショップカードのようだった。プライベートサロンと書かれていて、サロンの名前は「W」。それを見てまりこは息子の名前から取ったのかな?と思ったという。
「お話し会には参加カードがあって、それを作る際に名前を聞いたから知っていたんです。ワタルくん。なんだか、良いなと思いました。
カードには、『良かったら髪切りに来てください! サービスしますんで』と書かれていました。それを見て逆にホッとしたというか、ああ営業かと。
ここのところ行きつけの美容室もなかったし、行ってみようとすぐに思いました。彼ともう少し話をしてみたいという下心があったことも事実です」
まりこは翌日、ショップカードに書かれた番号に電話をかけたという。
「出たのは彼でした。『嬉しいです』と言ってくれて、そのまま次の金曜日に予約を入れました。こんなにワクワクするのは久しぶりで、何を着ていこうとか、年甲斐もなく考えている自分にびっくりしました」