日本において「バレエダンサー」という職業だけで生計を立てていられる人は、わずか一握りの人間だけだ。お金に困っていないバレエダンサーは、熊川哲也ただ一人。そんな風に言われることも少なくない。それでも、バレエを続けられる男性には共通した特徴がある。
それは、「背後に金銭的支援をしてくれるパトロンがいる」ということ。今回は、王子のようなバレエダンサーと結婚した女性へのインタビューから、その世界を垣間見てみたい。
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唯香さん(仮名)28歳。ごく一般的な家庭で育った彼女は、友人に紹介されたバレエダンサーの祐介さん(仮名)と結婚をした。
「祐介さんと出会う前は一度もバレエの舞台を観たことはありません。私自身が人前に立つのが苦手な性格だったこともあり、初めて祐介さんの舞台を観たときには、大勢の観客の前で堂々と踊る姿に大きな衝撃を受けました。カッコいいと思う前に、私とは違う場所で生きている人なんだと畏縮してしまいましたね。なので、初めは結婚どころか、お付き合いも無理だと思ったんです」
初めて出会ったときは、価値観や育ってきた環境の違いに戸惑っていた唯香さん。しかし祐介さんとしては、大人しくて控えめな、自分の周りにいる女性と違う性質を持った唯香さんが魅力的に映ったようで、猛アプローチを仕掛けてきたという。
「彼の話を聞いていると、彼の社会がいかに小さくて限られたものだったのかを思い知りました。10歳からバレエを始め、中学や高校にほとんど通わず海外でバレエレッスンに打ち込む毎日。海外のバレエ学校を卒業した後は、いくつかのバレエ学校を転々とし、私と結婚する少し前にフリーになったみたいです。そう考えると、彼が人生で関わったことがある人はバレエダンサーの男性かバレエダンサーの女性、あとはマネージャーのような人やファンの方だけ。バレエに取り囲まれた人生がどんなものか、想像しようと思っても想像がつかなくて、もう諦めました(笑)」
特殊な人生を送ってきた祐介さんは、唯香さんの学生時代の友人や、職場の友人などに会うことをひどく喜んだそう。自分の友人たちに会うことを喜ぶ姿がかわいらしいと感じ、唯香さんもだんだん、祐介さんのアプローチに応えてもいいかなと思うようになったそうだ。
結婚してみれば、さすがはバレエダンサーなだけあり、物柔らかで自然とレディーファーストのできてしまう、まさに王子のような人。祐介さんとの新婚生活は、順調にスタートするはずだった。
しかし……。
「でも、なんです。結婚してみて後からわかったことなんですけど。彼の交友関係で、いまだに理解できないというか、どうしても納得のいかないことがあって……」
一般人の倫理、モラルを跳躍した振る舞いをする夫に衝撃を受けたという。
「バレエ界では当たり前だと言われたのですが、ホストのような接待をパトロンにしていて。なんだか薄気味の悪い世界に夫が住んでいることがわかりました」
表情を曇らせた唯香さんが話し始めたのは、祐介さんの一番古いファンだという50代女性(Aさん)と、祐介さんの関係についてだった。
「お世話になっているというのは、わかります。彼の公演のチケットは必ず数十枚購入して、お友達にも購入を勧めてくださります。バレエ団と何かしら関係があるようで、フリーになった彼に仕事を紹介してくれたりもします。でもだからって、クリスマスに二人きりでお食事をしたり、親族でもないのに私たちの結婚式に参列しているのって、おかしいと思いませんか?」
唯香さんは、何度も祐介さんに事態の異常さを訴えた。しかし「そういうものだ」と言って聞く耳を持ってくれなかったという。
☆次回では、さらに深いパトロンとダンサーの闇について、取材をもとに考察する☆
ライター 八幡那由多