【前編あらすじ】
円満な家庭を築きながらも、居酒屋で知り合った佐代子さん(仮名・44歳)と長く不倫関係にある和夫さん(仮名・58歳)。
家族にバレないよう細心の注意を払って不倫を続けてきた和夫さんだったが、ある時佐代子さんから家族でのロサンゼルス旅行について行きたいと言われてしまう。
佐代子さんの機嫌を損ねたくない和夫さんは、我々が思ってもみない大胆な行動に出る。
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「ロサンゼルスに着くと、温暖な気候と開放的な雰囲気に家族は大喜びでした。佐代子はサングラスをかけて、涼しい顔で僕らの横を素通りし、タクシーに乗りこんでいましたね。
実は彼女とは以下のような約束をしていたんです。
・昼間は家族サービスに徹し、夜に佐代子の部屋に行く。
・佐代子にはあらかじめ小遣いを渡し、昼間は自由に観光してもらう。
・ホテルや街で遭遇しても、絶対に声をかけない。
佐代子と逢える時間帯は夜ですが、その分、濃密に愛し合おうと約束しました。
そして昼は家族サービスで観光やショッピング、グルメを楽しみましたね。寝る時には妻と娘に『明日は朝7時に部屋に迎えに行くよ。おやすみ』とニッコリ。あえてあくびをしながら自室に戻るんです。
前回も言ったように、僕は『いびきがうるさいから』と妻と娘とは別の部屋をとったので、夜は自由の身。自室に戻ると、すぐさまトレーニングウエアに着替えて、あらかじめ聞いていた佐代子の部屋にダッシュしました。
実はトレーニングウエアに着替えるというのがミソなんです。妻や娘が僕の部屋を訪ねて不在でも、トレーニングウエアを着ていれば、戻った時に『寝付けないから、辺りをジョギングしてた』などと言い訳できるじゃないですか」
和夫さんは嬉々として自身の立てた計画を離す。またこの計画には、不倫を成功させるための「ミソ」があるという。
「なによりも、家族旅行に愛人を同行させ、同じホテルの別室に泊まらせるなど、普通ならあり得ない。この『あり得ないこと』は意外にも盲点です。嘘をつくなら小さな嘘よりも、大きな嘘のほうがバレにくいと聞きますが、今回、身をもって実証しました。
ロス滞在の4日目、妻と娘は、僕が明け方に部屋に戻った際、ドアの前でおろおろしていたんです。
『あなた、どこにいたの? 何度チャイムを押しても出ないし、スマホも通じないから心配で……』
『悪い悪い、ちょっとジョギングしてた。時差ボケが治らなくて』
『夜のジョギングは危ないわ』
『治安には十分気を付けているよ。美味しいものを食べ過ぎちゃって、腹も出てきたし、健康のためにも旅先でも適度な運動は大事だね』
とっさに話題を健康面に切り替えました。妻は普段から僕の体調を気遣ってくれるので、その点を強調すると、いくぶんか納得してくれたようです。
浮気にはトレーニングウエア! これは自分でもナイスアイディアだと自負しています」
何とも呆れたものだが、佐代子さんは嫉妬したりしないのだろうか?