【前編あらすじ】
実母や義母から、子供の成長速度に対し頻繁に口を挟まれていた沙織さん(仮名・35歳)。不安を煽られているうちに、1か月健診の案内が自宅に届く。しかしこの健診が、沙織さんをさらに追い詰めることになったと本人は語る。
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沙織さん自身は子どもの成長を不安視していなかったのに、周囲によって不安を植え付けられそうになっていた頃、タイミングを同じくして受けたのが1歳半健診だった。
「1歳半健診では、積み木がちゃんと積めるかとか、絵を見ながら犬がどれかわかるか、とかそういう検査もやります。わかっていても気分が乗らずにちゃんと指差しをしない子もいますし、積み木を積みたくなくてぐちゃぐちゃにしてしまう子もいるんですね。うちの上の子は、ワンワンはどれ? と絵を見ながら質問されても、ちっとも指差しをしませんでした。普段からあまりしなかったので」
また、積み木を積む検査でも積み木を積もうとせず、手の平で集めて横に並べたという。たまたま隣のテーブルで積み木検査を受けていた子どもは、いとも簡単そうに積み木を積み、母親と担当者から「すごいね、できたね」と褒められていた。その時、沙織さんはうっかり羞恥心を抱いてしまったのだそう。
「そういう自分が嫌でしたね。うちの子、できなくてかっこ悪いとか恥ずかしいとか。そういうことを思わないように毎日の育児を心がけてきたので、とても嫌な気持ちになりました。体裁なんかどうでもいいから子どもの個性を輝かせたいと、赤ちゃんを産んだ日に決めたので。でも、やっぱり私は小さい人間なんだなと落ち込みましたね」
沙織さんの浮かない顔の原因は自分自身に対する不甲斐なさだったが、担当の保健師は子が指差しや積み木ができないことで母親が落ち込んでいると解釈したらしい。「心配ですよね。でも心理士が相談に乗りますので安心してください」と声をかけたという。