奥さんに対して有利に立ちたいはずなのに、いざ自分のことを絶賛されると心に影が落ちる。罪悪感と申し訳なさ、何より母親に飛びつくリョウくんの姿がちらりと脳裏をかすめるのだった。
───私は一体、何をしているのだろう。
得られる背徳感に美和はぶるると痺れる快楽を感じている一方で、己のしている行動に罪悪感を感じるのも事実だった。でも、今はせめてこのままで、と願う。
陰では社員たちに田舎者っぽいと噂されている、ふっくらとした優しい雰囲気の丸顔で、美和は思う。きっと社内の誰も、地元の誰も、のんびりとした冴えない私がこんなに素敵な男と付き合っていることなんて想像もしていない。
ましてや、残業のふりをして育児を奥様に押し付けている彼が、私と毎週何度もセックスをしていることも、少しずつ彼を略奪しようとしていることも、そのために港区にまで引っ越したことも知らないだろう。薄れゆく罪悪感と背徳感に、どこかで線引きをしなくてはとは思っていながら。
美和はそっと微笑む。友達向けにやっているSNSでは、「#港区女子になってみたい #なんちゃって」などとハッシュタグをつけながら、東京タワーの写真などを投稿しておどけた田舎者を演じている。
そんな顔を知らない櫻井の妻は、今日も安心して“美和先生”に自分の子を預けている。
自分の夫も、子も、“美和先生”に取られてしまうかもしれないと気づかないまま。
Text:女の事件簿調査チーム
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