日々の睡眠不足が蓄積した状態=「睡眠負債」。24時間フルで楽しんでいると寝不足なってしまうのもわかりますが、睡眠負債はただの寝不足とは違います。仕事にもプライベートにも悪影響を及ぼすだけでなく、大きな病気を招くリスクもあるのです。しかも自分では気づきにくいことも多いというから、決して侮れません。今回は睡眠負債の恐ろしさやセルフチェック法、解消法などをお伝えします。
●睡眠不足は「寝だめ」で解決できるのか⁉
平日は、仕事に趣味にデートに24時間では足りず、ついつい睡眠時間を削ってしまいがち。その睡眠不足をカバーするため、休日の朝はゆっくり起きる。さらに、眠れるだけ眠る「寝だめ」の習慣がある人も多いでしょう。
でも、実はいくら眠っても「寝だめ」はできません。日々積み重なってしまった睡眠時間の不足分を、たくさん眠ることで取り返しているだけに過ぎず、「睡眠の貯金」はできていないのです。
というのも、睡眠と覚醒のリズムは「体内時計」と「睡眠物質」の2つによってコントロールされているためです。
夜になったら眠くなり、朝になったら目が覚めるのが体内時計の働き。一方、睡眠物質とは、長い時間起きていると脳にたくさんたまって眠気を誘うもの。睡眠中にそれが分解され、量が減ると目が覚めます。
こういった睡眠・覚醒のメカニズムから考えれば、体内時計や睡眠物質を無視するかのように「寝だめ」することは難しいというわけです。
●仕事でミスが続出するのは睡眠負債のせいかも
「睡眠の貯金」に対し、睡眠医学では「睡眠負債(睡眠の借金)」という言葉を使います。一般的には、毎日の睡眠が足りないことを「睡眠不足」、睡眠不足がたまっている状態を「睡眠負債」と考えるとイメージしやすいと思います。
休日に朝寝坊したりすることで睡眠負債を返すことはできますが、そもそも睡眠負債に気づいていない人も。平日は夜遅くまで起きていて、週末も早朝から外出、というような日々を送っていると、知らず知らずのうちに睡眠負債が増えている場合があるのです。
睡眠負債が大きくなってしまうと、これまで以上に眠気が強くなります。その時点で気づいて睡眠時間をたっぷり確保すればいいのですが、自覚のないまま放置していると、寝つきが悪いなどの不眠症状として現れることがあります。
また、脳の働きが低下するため、強い疲労感や倦怠感、無気力、意欲低下、不安、抑うつ気分、落ち着きのなさ、注意力散漫、協調性の欠如、攻撃性の高まりなどが見られます。
オフィスワークでは、仕事のスピードが遅くなったり、作業が雑になったり、ミスや失敗が増えたり、という可能性があるでしょう。睡眠を削ってハードに仕事をすればするほど、仕事上のトラブルが出てしまうなんて残念すぎますね。
なお、交通事故を起こすリスクも高まるので、仕事で運転をする人はとくに注意しましょう。ほかには、食欲不振や胃腸障害、筋肉痛が現れる、風邪をひきやすくなる、というように体調に変化が出る人もいます。
さらに、睡眠時間が短いとガン細胞が増えやすくなったり、脳細胞に「ゴミ」がたまりやすくなったりするという研究があります。人によって適切な睡眠時間が異なるため、睡眠時間が短い=睡眠負債とは必ずしも言えませんが、がんや認知症になりやすい可能性があるということ。うつ病になる可能性も指摘されています。
●自覚ない睡眠負債を簡単にチェックする方法
このような不調が出る前に睡眠負債をゼロにすべきですが、自分がどれくらいの負債を抱えているかわからない人も多いでしょう。そこで「休日と平日の睡眠時間の比較」でぜひチェックを!
具体的には、寝室をできるだけ暗く静かな環境に整え、休日に目覚ましをかけずに眠れるだけ眠ります。目が覚めてもまた目を閉じて二度寝をくり返し、いくら目をつぶってももう眠れない状態となるまで眠るのです。
限界まで眠ってどれくらいの時間になったでしょうか? その睡眠時間と、いつもの平日の睡眠時間の差が2時間以下ならば、睡眠負債はほとんどないと考えられます。
しかし、その差が2時間~3時間なら睡眠負債は1日につき1時間、3時間~4時間なら1日につき2時間、4時間~5時間なら1日につき3時間、ということになります。
●夜の睡眠&2種の昼寝によって週単位でリセット
睡眠負債を解消する基本は、もちろんたくさん寝ることです。睡眠負債でぼーっとした頭をすっきりさせて日中の仕事のパフォーマンスを高めるには、夜、6~8時間の睡眠時間を確保しましょう。
平日なかなか睡眠時間を増やすのがむずかしいようなら、週末に工夫を。休前日や休日の夜は平日より1時間早く寝床に入り、休日の朝は2時間遅く起きると、体内時計の調子をくずすことなく、週単位で睡眠時間を増やすことができます。
とはいえ、なかなか夜の睡眠時間は確保しにくいもの。そんなときは昼寝をぜひ活用してください。昼寝にもちょっとしたコツがあり、平日は「パワー・ナップ」、休日は「ホリデー・ナップ」を実践するのがおすすめです。
パワー・ナップとは、正午~午後3時の間にとる20分間の昼寝のこと。ベストなのは午後の眠気がピークとなる14~16時に寝ることですが、ビジネス・パーソンには無理なことが多いと思いますので、昼休みの前半に昼食をとり、後半に机に突っ伏したり椅子にもたれかかったりして、20分間の昼寝をしてはいかがでしょうか。
なお、パワー・ナップの前にコーヒーなどでカフェインを摂取しておくと、起きるころにちょうどカフェインの覚醒効果が現れてすっきりと目が覚め、クリアな頭で午後の仕事を始められます。
一方、ホリデー・ナップとは、休日にとる90分間の昼寝のこと。90分間である理由は睡眠のリズムと関係があり、眠りに落ちてから90分後というのはちょうど目覚めやすいころなのです。ソファやベッドなどに横になって眠ってもかまいませんが、眠りすぎないようにするため、必ず目覚ましやアラームをセットしておきましょう。また、夜の睡眠に悪影響が出ないよう、午後3~4時までには起きるようにしてください。
●スマホは就寝1時間前まで、がいい理由
また、睡眠負債を減らすためには睡眠の質を高めることも重要です。睡眠の質にもっとも影響を与えるのは「明るさ」と「食事」で、この2つの生活習慣をうまくコントロールすることがポイントです。
よほどの夜型人間でない限り、人間は日中に活動して夜に眠る昼行動性の動物で、夜は睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」が分泌されて眠くなります。
このメラトニン、明るさに影響を受けて分泌されるのですが、24時間社会となった現在、太陽が沈んだあとも明るい光を浴びる機会が増え、分泌が抑えられて睡眠の質が低下しがち。夜はコンビニなどの強い光をあまり浴びないようにしましょう。
とりわけ「ブルーライト」と呼ばれる青い光は、メラトニンの分泌をより強く減少させます。ブルーライトは、テレビ、パソコン、タブレット、ゲーム機、スマートフォンといった電子メディアの画面からたくさん出ているため、眠る1時間前、遅くとも30分前には、これらの電源を切るのが正解です。
●食事は就寝2時間前まで。難しければ「分食」を!
食事をしてお腹がいっぱいになると眠くなりますが、夕食のあとすぐに眠ると、眠りが深くならず睡眠の質が悪くなります。睡眠の質を考えれば、夕食から眠るまでは、2~3時間あけるよう意識してください。夜ごはんの時間は、眠る時刻から逆算して決めるといいですね。
どうしても、夕食が就寝タイムに近い遅めの時間になってしまうなら、たくさん食べないように気をつけましょう。たとえば「分食」はどうでしょか。夕方におにぎりなどを軽く食べておけば、夜遅くの食事は少なくても大丈夫なはずです。
睡眠負債はたまればたまるほど、単に眠いだけでなく体に悪い影響が出て、生命を脅かす病気を招くリスクもあります。睡眠負債の量を早めにチェックし、睡眠負債の解消に努めることこそ、健康でパワフルな毎日を送るための鍵なのです。
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